世界経済の動きや政治のニュースを見ていると、度々耳にする「関税」という言葉。でも実際には、どんな仕組みで私たちの暮らしや国内産業にどんな影響を及ぼすのか、あまりピンとこない方も多いのではないでしょうか。

本記事では、関税の基礎知識から引き上げのメリット・デメリット、世界各国の事例までを幅広く紐解きながら、輸入品にどう税金がかかり、それが日本企業の国際競争力や農家の生活、さらには私たちの食卓や家計にもどう影響するのかを、初心者の方にもわかりやすくカジュアルに解説します。最新の貿易動向に触れながら、「関税」という存在の背景と未来を一緒に見つめていきましょう。読み終えた頃には、国際社会のダイナミズムを支える重要な要素としての関税を、より身近に感じられるはずです。

目次

  1. 関税とは?基本のキ
  2. 関税が課される仕組みと計算方法
  3. 関税が引き上げられる理由
  4. 関税引き上げのメリット(政府・産業・雇用など)
  5. 関税引き上げのデメリット(消費者・企業など)
  6. 実例:世界の関税政策の変遷
  7. 日本の関税の現状と特徴
  8. 関税引き上げでよく話題になる分野(農業・自動車など)
  9. 貿易戦争とは?関税との関係
  10. 関税と自由貿易協定(FTA)・経済連携協定(EPA)
  11. RCEP・TPPなど地域貿易協定の影響
  12. 関税引き上げが国際関係に与える影響
  13. 関税と為替レートの関係
  14. 関税率の比較表
  15. まとめ:関税引き上げへの向き合い方

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1. 関税とは?基本のキ

まずは「関税(customs duty)」の基本的な定義からおさらいしましょう。関税とは、海外からの輸入品に対して政府が課す税金のことを指します。輸入時に支払う税金なので「輸入関税」とも呼ばれることがあります。

関税の主な目的

  1. 財政目的
    関税は国にとって重要な税収源の一つです。特に、国内の税収構造が所得税や法人税に偏っている国にとっては、輸入品に対して一定の税率で関税をかけることで安定した国の収入を得ることができます。
  2. 国内産業保護
    安価な海外製品が大量に国内に入ってくると、国内企業の競争力が低下してしまう恐れがあります。それを防ぎ、国内産業を保護するために関税をかけるのが二つ目の目的です。
  3. 貿易政策の一環
    各国は関税をコントロールすることで、他国との外交・貿易交渉を有利に進めようとする場合があります。いわゆる「関税引き上げをちらつかせることで交渉を有利にする」といった使われ方もあり、関税は国際政治や経済において大きな交渉カードにもなりえます。

2. 関税が課される仕組みと計算方法

関税は、輸入品が国境を通過するときに、商品の価格に一定の税率をかけて計算されます。一般的には、以下のような計算式で求められます。

関税額 = 課税価格 × 関税率
  • 課税価格:輸入される商品のインボイス価格(FOB価格など)+運賃・保険料など、関税を課す対象として認められるコストを合計したもの。
  • 関税率:輸入品の種類や協定・協約の有無によって変わってきます。

ただし、関税率は「従価税(商品の価格に対して○○%)」と「従量税(商品1kgあたり○○円、など重量や数量に応じて課される)」の2種類があります。多くの場合、従価税が使われるケースが多いですが、農産物や特定の鉱物など、一部の品目では従量税や混合税が設定されていることもあります。

関税分類コード(HSコード)

関税率を調べるときには、**HSコード(Harmonized System code)**と呼ばれる国際統一商品分類コードが重要になります。

  • 例:牛肉、生鮮野菜、自動車など、細かく区分けされており、それぞれに異なる関税率が設定される。
  • 国によって分類の最終桁数などは異なる場合がありますが、大枠は共通なので、企業が輸出入を行う際にはHSコードを活用します。

3. 関税が引き上げられる理由

関税が引き上げられる背景には、いくつかの理由が考えられます。

  1. 国内産業の保護強化
    国際競争力の低い国内産業を守るため、輸入品にかかる関税を高く設定して海外製品を高価格化することで、国内製品を選びやすくする狙いがあります。
  2. 貿易赤字の是正
    ある国が輸出よりも輸入のほうが大幅に多いとき(=貿易赤字が大きいとき)に、関税を上げることで輸入を抑えようとすることがあります。ただし、これは相手国の反発を招きやすく、しばしば「貿易戦争」につながるリスクがあります。
  3. 外交的・政治的な圧力
    関税を引き上げることで、相手国に政治的圧力をかける場合があります。例えば、ある国からの輸入品だけに高い関税を課すなどがこれにあたります。国際的にはWTO(世界貿易機関)のルールに抵触しないかどうかが問題となりやすいです。
  4. 財政資金の確保
    政府の財政状況が厳しくなった場合、比較的手っ取り早く税収を増やす手段の一つとして関税引き上げが検討されることもあります。しかし、関税を上げすぎると輸入量が減って逆効果になる場合もあり、バランスが難しいところです。

4. 関税引き上げのメリット

関税引き上げには当然ながらメリットがあります。主にどのようなプラス要素が考えられるのか、詳しく見てみましょう。

4-1. 国内産業の保護と育成

高関税によって海外製品の価格が相対的に高くなると、国内企業の商品が価格面で競争しやすくなります。特に、日本では農作物や一部製造業など、海外からの安価な輸入品が大きな脅威になる分野があります。高い関税をかけることで、国内の産業が生き残りやすい環境を作れるというメリットがあるのです。

例:農業分野

  • 日本ではコメ、麦、乳製品などに比較的高い関税がかけられており、海外の安価な農産物の流入を抑制しています。結果として、国内農家は一定の収益を確保しやすくなります。

4-2. 雇用の維持・拡大

海外製品の流入を抑えることで、国内企業の生産活動が活発化したり、少なくとも落ち込みを防ぐことができる可能性があります。これは雇用の維持・拡大にもつながります。特定の産業が輸入品に押されて衰退すると、その分野で働く人々の仕事が失われる恐れがありますが、関税を高くすることである程度守られやすくなります。

4-3. 政府の税収増

関税が上がれば、理論上は同じ輸入量が続く限り、政府の税収も増えることになります。多くの発展途上国では関税収入が財源のかなりの割合を占めており、財政基盤が脆弱な国にとっては貴重な収入源です。ただし、関税を上げすぎると輸入自体が減るため、結果的に税収が減ってしまう「ラッファー曲線」のような逆説も起こり得るため注意が必要です。

4-4. 交渉力の強化

「関税を引き上げるぞ」と宣言することは、国際交渉の場において一定の外交的・政治的圧力となります。これは一種の「カード」として機能し、他国との貿易交渉や政治的交渉を有利に進めるために使われることもあります。


5. 関税引き上げのデメリット

一方で、関税引き上げはメリットばかりではありません。デメリットとしては以下の点が挙げられます。

5-1. 消費者の負担増

輸入品に高い関税がかけられると、輸入製品の価格が上昇します。その結果、家電製品や日用品、食料品など、私たち消費者が普段手にする商品が高くなる可能性があります。特に海外製品に依存度が高い国や商品分野では、物価上昇や生活コスト増につながりかねません。

5-2. 競争力の低下

国内市場を保護しすぎると、国内企業が海外との競争を経験せずにぬるま湯に浸かってしまうという問題が起きるかもしれません。結果的に企業の競争力が伸び悩み、グローバル市場でのシェアを失うリスクがあります。

5-3. 貿易報復措置(貿易戦争)のリスク

ある国が一方的に関税を引き上げると、相手国も報復関税をかけてくる可能性が高いです。これがエスカレートすると、両国にとって不利益をもたらす**「貿易戦争」**に発展し、世界経済全体が不安定になる恐れがあります。

5-4. 輸出企業への影響

日本企業の中には、海外で生産した部品を輸入して国内で組み立て、再び輸出するというビジネスモデルを取っているケースが多くあります。関税が高くなると部品の調達コストが上がり、結果的に製品価格が上昇したり、国際競争力を失ったりするリスクがあります。また、日本製品に対して相手国も関税をかけるなどの措置に出ることも考えられます。


6. 実例:世界の関税政策の変遷

実際に、近年は世界各国で関税政策が注目を集めてきました。特に有名なのが、アメリカと中国の貿易摩擦です。2018年頃から、アメリカが中国製品に対して高関税を課し始め、中国も報復的にアメリカからの輸入品に関税を引き上げる「貿易戦争」の様相を呈しました。

  • トランプ政権時代(2017年~2021年)
    「アメリカ・ファースト」を掲げ、鉄鋼やアルミに高い関税を課し、中国製品全般にも追加関税を実施しました。結果として、アメリカの国内産業の一部(鉄鋼業など)は救われた部分がある一方で、報復として中国が大豆などのアメリカ産農産物に高関税を課すなど、アメリカの農家が打撃を受けました。
  • 中国の報復関税
    中国はアメリカの農産物、車などに対して高い関税を課し、アメリカからの輸入を減少させました。一部の市場では他国製品へのシフトが進み、両国関係は悪化しました。

このように、関税の引き上げは一方的なメリットだけでなく、複雑な影響を及ぼすことがわかります。


7. 日本の関税の現状と特徴

日本は世界的にみても比較的低い関税率を課している国の一つと言われています。ただし、例外として、農作物を中心に高関税が設定されている品目も少なくありません。

農作物の高関税例

  • コメ:以前は700%を超える関税相当額といわれていました(実質的にはさまざまな保護措置が組み合わさっている)。
  • 乳製品(バターなど):酪農家を保護するために高関税が課されることが多いです。

こうした高関税政策には、国内農業を守りたいという意図があります。一方で、食料自給率の低さと兼ね合いで、農業保護政策には賛否両論があり、自由化を進めるかどうかは政治的にも大きな争点となりがちです。


8. 関税引き上げでよく話題になる分野(農業・自動車など)

8-1. 農業

日本の場合、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)やRCEP(地域的な包括的経済連携)の交渉時に、特に農産物の関税が大きく取り沙汰されました。理由は言うまでもなく、農家を守りつつも、国際的な自由貿易の流れにどう対応するかが大きな課題だからです。

  • 農業団体は高関税の維持を求め、消費者や一部の業界は安価な輸入品の恩恵を求めるという構図が見られます。

8-2. 自動車

日本の主力輸出品といえば自動車。輸出先の国が日本の自動車に高い関税をかけると、日本車の価格競争力が下がり、販売が落ち込むリスクがあります。逆に、日本が自動車の輸入関税を引き上げる場合、海外メーカーは日本市場で苦戦し、日本の消費者も選択肢が減る可能性があります。


9. 貿易戦争とは?関税との関係

「貿易戦争(Trade War)」とは、複数の国同士が互いに関税を引き上げあい、貿易制限措置をエスカレートさせることで、経済的ダメージを与え合う状況を指します。アメリカと中国の事例は典型的な貿易戦争の一形態です。

貿易戦争がもたらす影響

  • 世界経済の減速:貿易量の減少や企業の投資意欲の低下を招き、各国の経済成長率が下がる。
  • 物価の上昇:相互に関税をかけ合うため、消費者は以前よりも高い値段で商品を買わざるを得なくなる。
  • サプライチェーンの混乱:グローバルに部品調達・製造を行っている企業のコストが増大。サプライチェーンを再構築せざるを得ない状況になる。

10. 関税と自由貿易協定(FTA)・経済連携協定(EPA)

現代の貿易は、複数国間で結ばれる協定が大きく影響します。FTA(Free Trade Agreement)やEPA(Economic Partnership Agreement)などと呼ばれる協定では、関税を段階的に減らしたり、撤廃したりする仕組みが盛り込まれます。

日本の主なFTA/EPA例

  • 日EU EPA(2019年発効)
    日本とEUの間で多くの商品関税を撤廃または引き下げ。自動車や自動車部品、日本酒、チーズなどが焦点となりました。
  • TPP(CPTPP)
    日本、カナダ、オーストラリア、ベトナム、マレーシアなど11カ国が参加。農産物や工業製品など幅広い品目の関税撤廃が目指されています。

こうした協定によって、協定参加国の間では関税が段階的に下がる・なくなる一方、参加していない国との間の関税率には変化がないため、国際貿易の流れが大きく変わる可能性があります。


11. RCEP・TPPなど地域貿易協定の影響

11-1. RCEP(地域的な包括的経済連携)

RCEPは東アジア地域を中心とした15カ国(日本、中国、韓国、ASEAN加盟国、オーストラリア、ニュージーランド)が参加する巨大な経済連携協定です。日本は農産品や工業製品での関税を段階的に削減することを約束していますが、中国や韓国と初めてのFTA的協定であり、今後の影響が大きいと期待・懸念が入り混じっています。

  • メリット: 日本企業にとっては、広いアジア市場での関税が下がるため、輸出の拡大が期待される。
  • デメリット: 安価な中国製品や韓国製品が日本に入ってくるハードルが下がり、国内産業への圧力が高まる。

11-2. TPP(CPTPP)

アメリカが一時離脱したことで話題になりましたが、残る11カ国で発効したのがCPTPPです。日本にとっては農産物への影響が大きく懸念される一方、工業製品の輸出拡大には有利とされています。

  • メリット: 自動車や自動車部品の関税撤廃により、日本の自動車メーカーにとって輸出コストが下がる。
  • デメリット: 農産物への関税が下がり、日本の農家は海外の安価な商品と競争を強いられる。

12. 関税引き上げが国際関係に与える影響

関税を引き上げるという政策は、経済にとどまらず、国際関係全体に影響を与えます

  • 外交問題への発展: 一方的な関税引き上げは、相手国との摩擦を引き起こし、政治・外交関係にもヒビが入る可能性がある。
  • 地政学的リスク: 地域情勢が不安定な地域で関税戦争が発生すると、安全保障上のリスクも高まる。

特に、近年はアメリカや中国など大国が関税カードを積極的に使う傾向があり、その影響力は世界中に波及しています。


13. 関税と為替レートの関係

関税だけでなく、為替レートの変動も輸出入価格に大きな影響を与えます。例えば、日本円が大幅に円安になると、ドル建てで見た輸入コストが上昇するため、実質的に消費者にとっては関税が上がったような負担が増える場合があります。

  • 円安: 輸入品が割高になり、輸出企業は利益拡大が見込みやすい。
  • 円高: 輸入品が割安になり、国内消費者にはメリットだが、輸出企業にはマイナス要因。

関税政策を議論する際には、為替レートも合わせて考える必要があります。為替レートの急変動と関税引き上げが重なると、企業側にとってはダブルパンチになることもあります。


14. 関税率の比較表

ここでは、世界各国の関税率(平均関税率)をざっくり比較してみましょう。実際には品目ごとに大きく異なりますので、あくまで「平均的な目安」としてご参照ください。データは各国政府や国際機関(WTOなど)が公表している数値を元にした2023年時点の概算イメージになります。

国・地域平均関税率(概算)主な特徴
日本3〜4%農産物には高い関税。工業製品は比較的低い。
アメリカ2〜3%一部の品目(鉄鋼、アルミなど)に高関税を課す傾向。
EU(欧州連合)3〜4%農産物への関税がやや高め。FTAを積極的に締結。
中国9〜10%工業製品の関税は下がりつつあるが、依然として高め。
韓国8〜9%品目によって幅がある。FTAにより主要国とは低減傾向。
オーストラリア1〜2%資源輸出国のため、輸入関税は比較的低い。
インド15%前後国内産業保護のため関税率が高め。
ブラジル13〜14%自動車など工業製品に高関税を課す傾向。
  • 上表はあくまで平均・概算であり、国によっては農産物や特定工業製品に関しては20〜30%を超えるような関税をかけている場合もあります。

15. まとめ:関税引き上げへの向き合い方

ここまで、関税の基本から関税を引き上げる理由、メリット・デメリット、そして実際の事例などを見てきました。関税が高くなるという政策には、国内産業の保護や政府収入の拡大といったメリットがある一方で、貿易戦争や消費者負担増、企業の競争力低下などのデメリットも存在することがわかります。

  • メリット: 国内産業の保護、雇用維持、税収増、外交カード
  • デメリット: 消費者負担増、競争力低下、報復関税、サプライチェーン混乱

最終的には、政府や政策当局がどこに重点を置くかという問題です。短期的には国内産業を守りたくても、長期的に国際競争力を育成するためには、海外との自由貿易も必要になります。さらには、一国の都合だけで関税を上げれば、相手国との報復合戦につながるリスクも無視できません。

個人や企業としての対策

  • 企業: サプライチェーンの多様化や、生産拠点の分散など、リスクに備える。
  • 個人(消費者): 商品の価格が上がるかもしれないことを視野に入れつつ、国産品と輸入品のコスパを比較する。関税政策を知っていると、買い物の選択肢や社会の仕組みを理解しやすい。
  • 投資家: 関税政策によって大きく業績が左右される企業やセクターに注目し、投資判断を行う。

関税は地味なようでいて、実は私たちの生活コストや国内の産業、さらには世界経済の行方に大きく影響する存在です。今後も各国で保護主義と自由貿易のバランスが議論される中で、関税にまつわるニュースにはぜひ注目してみてください。


本記事のポイントまとめ

  1. 関税とは:輸入品に課される税金。国内産業保護や税収確保、貿易交渉などに使われる。
  2. 引き上げ理由:国内産業の保護、財政確保、貿易赤字是正、政治的圧力など。
  3. メリット:国内企業を守り、雇用維持や産業育成、政府の税収増につながる。
  4. デメリット:消費者負担増、国際競争力の低下、報復関税、世界経済の不安定化。
  5. 実例:米中貿易戦争、日本の農産物高関税など。
  6. FTA/EPA/RCEP/TPP:関税を減らす・撤廃する協定が拡大しており、世界の貿易の流れが変化している。
  7. 今後の動向:保護主義が強まる傾向か、自由貿易が進むのかは政治・経済状況によって変化する。