2024年、日本の出生数がついに70万人を下回り、9年連続の減少が現実となりました。「人口が減れば経済は縮小するのか?」という不安に対し、日本・アメリカ・中国・インド・東南アジア諸国の最新データをもとに徹底比較。人口減少社会でもGDP成長は可能なのかを掘り下げます。

「人が減っているのに、どうやって経済が成長するの?」こんな疑問を感じたことはないでしょうか?
2024年、日本の出生数がついに70万人を下回ったという事実が、ニュースやSNSを通じて大きく報じられました。まさに統計開始以来初の水準であり、少子化の流れがもはや「将来の問題」ではなく、「今この瞬間の現実」であることを突きつけています。

このような状況で、「日本経済はもう成長できないのではないか」という声が自然と広がります。しかし、本当に「人口が減る=経済が縮小する」という方程式は成立するのでしょうか? これは、短期と長期、国内と世界、そして投資と成長の視点を分けて考える必要があります。本記事では、日本・アメリカ・中国・インド・フィリピン・インドネシア・ベトナムといった国の人口動態とGDP成長を比較しながら、人口減少が与える本当の影響を多角的に分析していきます。

目次

  1. はじめに:少子化と経済成長への懸念
  2. 各国の人口動態とGDP成長(データ比較)
  3. 人口減少が経済成長に与える制約
  4. 人口減少に立ち向かう政策・技術・生産性向上策
  5. 人口増加国の強みと課題:アジア新興国のケース
  6. 投資家視点:リスクとチャンス
  7. おわりに:人口構造の変化を超えて成長する道

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1 はじめに:少子化と経済成長への懸念

2025年6月、日本の厚生労働省は2024年の出生数が約68.6万人となり、統計開始以来初めて年間出生数が70万人を下回ったと発表しました。合計特殊出生率も1.15と過去最低を更新し、9年連続で低下しています。少子化に歯止めをかけようと日本政府は出産育児一時金の増額、高校授業料の無償化、男性の育休促進や婚活支援など幅広い対策を講じていますが、それでも出生数減少に歯止めがかからないのが現状です。こうした人口減少傾向を背景に、「人口が減る国ではGDP総量の経済成長はもはや不可能ではないか」という懸念が広がっています。果たして人口減少=経済成長の停止なのでしょうか。本稿では、日本を含む主要国(米国・中国・インド)および人口増加が続くアジア新興国(フィリピン、インドネシア、ベトナム)の最新データを比較し、人口動態と経済成長の関係を検証します。さらに、人口減少国が直面する経済成長の制約と、それを乗り越えるための政策・技術革新・労働生産性向上の取り組みを詳述します。また、投資家の視点から見たリスクとチャンスを分析し、注目すべきセクターや対応策を提案します。

2 各国の人口動態とGDP成長(データ比較)

まず、対象各国の人口規模・増加率、出生率、GDP成長率の最新統計を比較します(表)。人口減少が進む日本や中国、緩やかな人口増の米国、高い人口増加を続けるインドや東南アジア諸国で、経済成長の状況がどう異なるかを把握します。

国名人口
(2023年)
年間人口
増加率
合計特殊
出生率(TFR)
2023年
GDP成長率*1
日本1億2,452万人-0.5%1.15+1.7%
アメリカ約3億3,400万人+0.5%約1.6(推定)+2.9%
中国約14億0900万人-0.15%1.1+5.2%
インド約14億2800万人+0.9%2.0+8.2%
インドネシア約2億8,119万人+0.8%2.1+5.0%
フィリピン約1億1,489万人+0.8%2.45+5.5%
ベトナム約1億300万人+0.68%1.91+5.0%
*1各国のGDP成長率は実質GDPの前年比成長率(年率)を示す。

表を見ると、日本と中国は人口が減少局面にあります。日本は2023年の人口増加率が-0.5%で約50万人規模の自然減となり(出生数<死亡数)、中国も2023年に0.15%の減少(約208万人減)と初めて人口が減り始めました。特に日本のTFRは1.15、中国も推定1.1~1.2程度と出生率の極度の低下が共通しています。一方、米国は人口が微増(+0.5%)しています。米国の出生率は1.6程度と低いものの、移民の受け入れや出生数(約359万件/年)に支えられ、人口増を維持しています。また、インドは2023年時点で約14億3千万人と世界最多の人口となり(2023年に中国を逆転)、増加率も+0.9%とまだ成長局面です。インドのTFRは2.0とほぼ人口置換水準で、今後緩やかに人口増加が続くと見られます。東南アジアでは、フィリピン(TFR 2.45)やインドネシア(TFR 2.1)が人口ボーナス期を享受し、毎年0.8%以上の人口増を記録しています。ベトナムは2023年に人口1億人を突破し増加率+0.7%ですが、出生率は1.91と既に人口置換水準付近まで低下しています。

経済成長率を見ると、人口減少下の日本のGDP成長率は年+1~2%台と低めですがプラス成長は可能となっています。米国は+2.9%、中国は+5.2%、インドは+8.2%、東南アジア諸国も+5%前後と、近年はコロナ禍からの回復もあり新興国ほど高成長を示しています。重要なのは、人口減少国であっても一定の経済成長は実現している点です。日本や中国では人口減にもかかわらずプラス成長を維持しており、人口増が緩慢な米国や人口減少が始まった中国でも成長は可能です。この背景には一人当たりGDP(生産性)の伸びが寄与しています。つまり「人口が減れば必ずGDP総量が縮小する」という単純な関係ではなく、人口動態以外の要因(技術革新や労働参加率など)が成長を左右することがデータからもうかがえます。以下では、人口減少が経済成長に及ぼす影響と制約を分析し、それぞれの国の取り組みを見ていきます。

3 人口減少が経済成長に与える制約

人口減少は労働力人口の減少と消費者数の減少を通じて、経済成長にマイナスの圧力をかけます。まず労働供給の面では、若年層の減少と高齢化により生産年齢人口(一般に15~64歳)が縮小し、労働力そのものが不足します。高齢化の進行は、生産年齢人口の割合低下だけでなく、相対的に生産性の低い高齢労働者の比率上昇をもたらし、労働生産性全体を押し下げる可能性があります。需要面でも、高齢者は一般に消費支出が若年層より少ないため、人口構成が高齢寄りになると国内消費需要の伸び悩みにつながります。さらに、人口減少に連動して国内市場規模が縮小することで企業の投資意欲も減退し、中長期の成長力低下を招く懸念があります。日本の内閣府も、高齢化に伴う貯蓄率低下が資本蓄積を通じた成長寄与を弱める可能性を指摘しています。

しかし一方で、人口減少そのものが直ちに経済成長を不可能にするわけではありません。鍵となるのは一人当たりGDP成長率(労働生産性の上昇)です。実際、OECD加盟国38カ国の1990年以降のデータを見ると、人口増加率と一人当たり実質GDP成長率との間に明確な相関は見られません。日本の例でも、近年の低成長の大きな要因は人口減よりも一人当たりGDP成長率の低下にあります。ニッセイ基礎研究所の分析によれば、「人口減少が続くもとでも、一人当たりGDPの伸びを高めることによって国全体の成長率を高めることは可能」であり、人口減少そのものより生産性向上の停滞こそが問題だと指摘されています。つまり、総人口が減っても生産性や付加価値を高めて一人当たりの産出を伸ばせば、GDP総量を維持・拡大できる可能性があります。

他国の事例を見ても、人口が減少もしくは停滞する国が全く成長できないわけではないことがわかります。例えば、欧州の中には人口減少局面でも労働生産性向上や輸出拡大によって一定の成長を遂げている国があります。また日本も、人口がほぼ横ばいだった1990年代後半から2000年代にかけて、一人当たりGDPの上昇に支えられて僅かながらGDP総量を増やした時期があります。要は、経済成長=人口増加率+一人当たりGDP増加率と概念的に分解できる中で、人口増がマイナスでも後者を十分にプラスにできれば成長は可能です。もちろん、生産年齢人口の減少は潜在成長率を押し下げる要因ではあるものの、それを上回る生産性革命や人的資本向上が起これば打ち消すことができます。次章では、人口減少国がそうした制約を乗り越えるために講じている政策や技術革新の取り組みを具体的に見ていきます。

4 人口減少に立ち向かう政策・技術・生産性向上策

人口減少の影響を緩和し、経済成長を維持・加速するために、各国政府や企業は様々な対策を講じています。主な方向性は、(1) 出生率向上策による将来的な人口減への歯止め、(2) 移民受け入れや労働参加率向上による労働力確保、(3) 技術革新と生産性向上による少ない人手での産出拡大、の3点に整理できます。それぞれの国の具体例を見ましょう。

日本:総合的な少子化対策と労働力活用 – 日本政府は少子化対策を国家の最優先課題と位置付け、経済的支援から働き方改革まで包括的な施策を展開しています。前述の通り出産一時金の引上げや教育無償化、育児休業の拡充、婚活支援などにより若年世代の結婚・出産を後押ししています。しかし出生率低下に歯止めがかからない現状では、即効性のある対策として労働力の有効活用が重視されています。具体的には、女性と高齢者の就業促進です。日本ではここ十数年で女性の社会進出が大きく進み、2024年には女性就業者が前年比31万人増の3,082万人と過去最多を更新しました。高齢者も含めた総就業者数は2024年に6,780万人と1953年以降で過去最大となり、60歳以上の就業増加が若年層減少を補う形で労働力人口を支えています。高齢者の就業率も上昇傾向にあり、65歳以上人口の労働参加率は2024年で26.1%に達しています。

企業側も定年延長や継続雇用制度の整備で高齢者の労働参加を促進しています。また、労働力不足の深刻な分野では外国人労働者の受け入れ拡大も進められています。日本の介護分野では2023年時点で約5.7万人の外国人労働者が働いており、慢性的な人手不足(求人倍率4.25倍)を補うため政府は海外からの人材確保に力を入れています。さらに、技術革新による生産性向上も人口減対策の柱です。日本企業は自動化・省力化技術の導入に熱心で、特にサービス産業や介護現場でロボット技術やAIの活用が進みつつあります。例えば、介護分野では人手不足解消の切り札としてAI搭載の介護ロボットの研究開発が国の支援で進められています。2025年には人型ロボット「AIREC」が高齢者の体位変換や見守りを行う実証が行われ、「超高齢社会と出生数減少の中でロボットの支援が必要になる」と研究者も述べています。現に日本では労働力人口減少を補うべく、飲食店の接客や工場の単純作業にロボットを導入する例が増えています。政府も企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、生産性革命によって少ない人でも経済成長できる仕組みを追求しています。総じて日本は、「出生率向上策」「労働参加率アップ」「生産性革命」の三方向から人口減少の壁に挑んでいると言えます。

中国:出産奨励と技術投資 – 中国も急速に少子高齢化が進み、人口減少のスピードは政府予想を上回るペースです。政府は2016年に一人っ子政策を廃止して以降、2人・3人までの出産を認め、近年は出生奨励策を矢継ぎ早に打ち出しています。例えば、育児補助金や住宅優遇があります。地方政府レベルでは、2021年以降各地で税控除、育児休暇延長、住宅補助などのインセンティブが導入されました。一例として、深圳市では第3子以降に対し子どもが3歳になるまで年間6,000元(約11万円)の手当を支給し、山東省済南市でも第2子・第3子の家庭に月600元の育児補助を出しています。また教育費負担の軽減策として、2021年には高額化していた民間教育(塾)産業への規制(営利禁止)を行い、子育てコストへの不安軽減も図りました。さらに、中央政府は職場の子育て支援にも乗り出し、フレックスタイムや在宅勤務の普及を地方政府に促しています。

一方で、出生率回復には時間がかかるため、中国も労働力確保と生産性向上に注力しています。2022年頃から政府内で定年年齢の引き上げ(現行男性60歳・女性55歳の引上げ)が議論され、高齢化に対応した労働市場改革が模索されています。また製造業を中心にロボット導入が急増しており、中国は今や世界最大の産業用ロボット市場となっています。これは人件費上昇と若年労働力減少を見据えた動きで、国策の「中国製造2025」でも自動化・AI分野への投資が重点とされています。加えて、中国企業はデジタル技術にも積極投資しており、Eコマースやフィンテック分野では世界的な競争力をつけています。政府主導のインフラ投資も相まって、総じて資本投入と技術進歩で労働力減少を補完する戦略を取っています。ただ、中国は日本以上に急速な高齢化(2024年時点で死亡数1,093万人・出生数956万人と自然減が拡大)に直面しており、経済への打撃を抑えるには時間との戦いになっています。効果的な少子化対策や年金・医療制度の改革も急務です。

米国:移民受入とイノベーション – 米国は先進国の中では人口増加が続いている数少ない国です。その原動力は積極的な移民受け入れ政策と相対的に高い出生率です。2023年の米国の人口増加率+0.5%のうち、多くは移民流入とされています。米国の出生率(総和出生率)は約1.6と日本よりは高いものの置換水準は下回っているため、本来であれば自然増はほとんどありません。しかし毎年数十万人規模で移民・難民を受け入れており、これが労働力と消費者人口の確保に寄与しています。移民はIT技術者から農業労働者まで幅広い分野で米国経済を支える存在です。また、米国の強みはイノベーションによる生産性向上にあります。

シリコンバレーを擁する米国はAIやバイオなど新産業の創出で世界をリードしており、高付加価値産業がGDPを押し上げています。人口構成も他の先進国と比べ比較的若く、生産年齢人口(15〜64歳)の割合が高めで、高齢化のスピードは緩やかです。ただし、ベビーブーマー世代が2020年代に一斉に引退期に入っており、労働力不足が懸念される分野もあります。このため米企業は賃上げや自動化投資で人手不足に対応しつつ、生産拠点の一部を労働力の豊富な国へ移転する動き(例:メキシコとの近接生産)も見られます。総じて米国は、人材吸引力と技術革新力によって人口要因の制約を最小化していると言えます。

その他先進国の例 – 欧州諸国では、フランスが家族手当や育児支援充実によってTFR1.8前後と比較的高い出生率を維持し人口減に歯止めをかけています。またドイツは近年積極的に高度人材移民を受け入れ、産業のデジタル化を進めることで低成長ながらも経済規模を維持しています。一方、韓国やシンガポールのように出生率が1.0前後まで低下した国では、移民受け入れ政策を緩和したり、多額の出産インセンティブ(シンガポールでは第1子で約70万円、第2子以降で約100万円のボーナス支給など)の導入を行ったりしています。シンガポールは移民流入に支えられ人口増を続けていますが、韓国は移民制限もあって人口減少が始まり、長期的な成長率低下が懸念されています。ただ韓国企業は海外市場開拓やロボット活用で国内人口減の影響を補おうとしており、政府も出生率引上げと高齢者活用を模索中です。

以上のように、人口減少国それぞれが多角的な対策を実施しており、「人口オーナス(重荷)」を少しでも「ボーナス」に転換しようと努めています。その成果には限界もあるものの、日本では女性・高齢者就労の増加によって就業者数自体は過去最高を更新するなど一定の効果も出ています。技術面でも、日本の介護施設でロボットが実用化され始めるなど、徐々に労働力減を補う手段が現実のものとなっています。重要なのは、こうした取り組みを総合的かつ継続的に行うことで、長期的な潜在成長率の低下を食い止めることです。

5 人口増加国の強みと課題:アジア新興国のケース

対照的に、人口が増加している国々は「人口ボーナス」を活かした成長が期待されます。インドやフィリピン、インドネシア、ベトナムといった国では、労働力となる若年人口が豊富であり、生産年齢人口比率が高まる局面にあります。これは適切に活用できれば大きな経済成長の原動力となります。例えば、フィリピンやベトナムは近年6%前後の高成長を遂げており、その背景には豊富な若い労働力を活用した製造業・サービス業の発展があります。フィリピンは人口1億1千万超の国内市場を抱え、消費が堅調であることも成長を支えています。また、インドネシアは人口約2.8億人で東南アジア最大の市場を形成し、中間層の台頭による内需拡大が5%前後の成長を下支えしています。インドはさらに巨大な人口を抱え、IT・サービス産業での人材供給源ともなっています。これら人口増加国では、若年層の就学率向上や雇用創出が今後の課題ですが、順調に行けば「一人当たり所得も増え総GDPも大きく伸びる」という好循環が期待できます。実際、国際機関の長期予測では今後20〜30年でインドやフィリピンが高所得国入りするとの見方もあります。

もっとも、人口増加国にも留意すべき課題はあります。若年人口が多いということは、教育や雇用の機会を十分に提供しなければ失業や貧困が増えかねないということです。人口ボーナスを本当の経済ボーナスに変えるには、人的資本への投資(教育・技能訓練)と産業の育成が必須です。例えばインドでは都市部の教育水準は上がっていますが、農村部との格差が課題です。また十分な雇用を生み出せなければ、若者層の不満が社会不安につながるリスクもあります。フィリピンでも出生率は徐々に低下傾向にあるとはいえ(PSAによればパンデミック下の一時的低下後に2023年時点でTFR2.45に戻った)、将来的には高齢化が進むため、今のうちに経済成長に弾みをつけインフラや社会保障の整備に注力する必要があります。ベトナムはすでに2035年頃に高齢社会入りする予測もあり、人口ボーナス期の残り時間は限られています。このように、人口増加国は時間限定の好機を迎えており、その間に持続的成長の基盤を築くことが肝要です。

全体として、人口構造が経済にもたらす影響は二面性があります。適齢人口が増えている国では労働力という資源をどう活かすか、減っている国では労働力減をどう補うか——アプローチは正反対ですが、目指すところは労働者一人ひとりの生産性を高め、持続可能な成長パターンを確立する点で共通しています。

6 投資家視点:リスクとチャンス

人口動態の変化は長期的な投資リスクと機会を生みます。ここでは投資家の視点から、人口減少国と人口増加国それぞれで留意すべきポイントと、注目セクターを整理します。

● 人口減少国におけるリスク

  • 国内市場の縮小: 人口減に伴い国内消費市場が先細りになる懸念があります。例えば日本では総人口減少により住宅需要が減り不動産価格に下押し圧力がかかったり、国内向けの小売・食品業界で市場規模縮小が予想されます。内需依存型企業は成長機会を失いやすく、投資家にとっては業績停滞リスクとなります。
  • 労働力不足によるコスト増: 慢性的な人手不足が企業の人件費負担を押し上げ、収益を圧迫する可能性があります。人件費高騰は労働集約型産業に打撃となり、生産拠点の海外移転や事業縮小を余儀なくされるケースも考えられます。
  • 社会保障負担・財政リスク: 高齢化で年金や医療への公的支出が増大し、政府財政を圧迫します。税負担増や国債増発による金利上昇などマクロ経済面の不安定要因となり得ます。特に日本のように債務残高が大きい国では、財政健全性への懸念が投資マインドを冷やすリスクがあります。
  • イノベーション減速の懸念: 人口減少と高齢化により社会活力や起業・革新が停滞するリスクも指摘されます。新しい産業の芽が出にくくなれば、長期的な株式市場の成長も期待しにくくなります。

● 人口減少国におけるチャンス・注目セクター

  • シルバー産業・ヘルスケア: 高齢者人口の増加により、医療・介護・健康関連産業は拡大が見込めます。高齢者向け住宅、介護サービス、遠隔医療、創薬・医療機器などは需要拡大が確実で、安定した投資先となり得ます。実際、日本では高齢者向けビジネス市場規模が年々拡大しており、介護ロボットや見守りIoTなど新技術の投入も活発です。
  • 自動化・AI関連: 人手不足を補うロボットやAIソリューションへの需要は高まり続けます。労働生産性向上に寄与するテクノロジー企業は人口減少社会でも成長機会があります。日本の例ではサービス業への配膳ロボット導入や製造業の工場自動化需要が増えており、ロボットメーカーやAIソフトウェア企業は恩恵を受けています。政府もこの分野への補助や投資を拡大しています。
  • 人材サービス・教育: 労働力確保のための人材派遣・人材育成ビジネスも有望です。限られた若年層を高度技能者に育てる教育産業、あるいは海外人材の受け入れ支援サービスなどが伸びる可能性があります。例えば語学教育、職業訓練、資格取得支援といったセクターです。
  • 海外市場志向の企業: 内需縮小を補うため海外展開を図る企業も投資妙味があります。人口減少国の中には自国市場の伸び悩みを海外事業で補完する企業が多く、日本の製造業や小売業でもアジア新興国市場への進出が進んでいます。こうしたグローバル展開企業は国内人口減の影響を相対的に受けにくいでしょう。

● 人口増加国におけるリスク

  • インフラ・公共サービス不足: 人口増に経済成長が追いつかない場合、都市インフラや教育・医療など公共サービスが不足し、社会不安要因となる恐れがあります。例えば急速な都市化で渋滞や電力不足が深刻化すれば生産性を下げ、成長の足かせとなります。投資家はインフラ整備の進捗や政府の統治能力を注視する必要があります。
  • 若年失業のリスク: 若年人口が多い分、十分な雇用機会を創出できなければ失業率が上昇し治安悪化や政治不安に繋がる可能性があります。エジプトや南アジアの例では失業若者が社会的不安定の温床となったケースもあり、新興国投資ではこの点を警戒する必要があります。
  • 資源・食糧需要の急増: 人口増に伴いエネルギーや食料への需要が急増します。自給できない場合は輸入増による貿易赤字や資源争奪の地政学リスクも。特にインドやフィリピンではエネルギー需給や食糧安全保障政策が経済の安定に直結します。

● 人口増加国におけるチャンス・注目セクター

  • 消費関連セクター: 若い人口構成により、中長期的な消費市場の拡大が見込まれます。食品・飲料、アパレル、住居、娯楽などコンシューマー関連企業は継続的な需要増加の恩恵を受けるでしょう。特に中間所得層の拡大が期待できるインドや東南アジアでは、小売業やEコマース、市場シェア拡大中のブランド企業が有望です。
  • インフラ・建設: 人口増加国では住宅や道路、電力・通信といったインフラ需要が大きいため、建設セクターやインフラ関連企業は長期にわたり成長が期待できます。実際、東南アジア各国は大型インフラ計画を進めており、建設資材や建設機械メーカーにも商機があります。
  • 教育・人材育成: 若年人口が多い国では教育産業が重要な位置を占めます。学校運営からオンライン教育、塾・予備校産業、職業訓練ビジネスなど、人的資本への投資分野に商機があります。質の高い教育サービスを提供できる企業は、将来の労働生産性向上にも貢献するため政府支援を受けやすい傾向にあります。
  • 製造業・現地生産: 賃金水準と労働力規模のバランスが良い人口増加国は、「世界の工場」として海外直接投資を呼び込みやすいです。近年は中国の人件費上昇により、ベトナムやインドが製造業の生産拠点として注目されています。現地に進出する多国籍企業や、現地の製造企業(自動車、電子機器、繊維など)は高成長が期待できます。

以上のように、人口減少は従来のビジネスモデルに変革を迫るリスクであると同時に、新たな需要を生み出すチャンスでもあります。投資家としては各国の人口動態を長期視点で捉え、構造変化に適応・貢献できる企業を見極めることが重要です。

おわりに:人口構造の変化を超えて成長する道

日本の歴史的な少子化ニュースを契機に、人口減少と経済成長の関係を多角的に検証してきました。結論として、人口減少そのものがGDP総量の成長を絶対的不可能にするわけではないことがデータと各国事例から分かります。確かに人口オーナス期に入った国では成長のハードルが上がるのは事実ですが、それを乗り越えるための方策も多く存在します。日本や中国は正に転換点に立っており、労働参加率の向上や生産性革命、そして将来世代への投資がこれまで以上に求められています。特に日本は、「人が減っても経済は成長できる」ことを示すモデルケースとなるべく、大胆な改革とイノベーションを推し進める必要があります。その意味で、近年の日本企業のデジタル化や女性・高齢者活躍の進展は希望の持てる兆しです。

一方、人口増加国もこの好機を逃さず、持続的成長の基盤を築くことが重要です。人口ボーナスは永遠には続きません。インドや東南アジア諸国が今後数十年のうちに高齢化社会へ移行するのは確実であり、その前に教育やインフラ整備を完遂し、経済を高度化しておくことが将来の安定成長に繋がります。投資家にとっては、各国の人口動向を睨みつつ、中長期的な視野でポートフォリオを構築することが求められます。人口減少国では変革をチャンスに変える企業、人口増加国では人口ボーナスを享受できる企業に注目することで、構造変化に対応した投資戦略が可能となるでしょう。人口構造の変化は確かに大きな挑戦ですが、人類は技術と政策の工夫によってこれまでも数々の制約を乗り越えてきました。人口減少を嘆くだけでなく、むしろ新たな成長モデルを創出する契機ととらえ、官民連携して対応していくことが肝要です。それこそが、人口減少時代においても経済繁栄を実現する道筋となるでしょう。

最後に、本分析で示した各種データや施策の効果については継続的なウォッチが必要です。2025年以降も日本を含む各国で人口動態は変化し続けます。新たな統計や政策動向が出れば適宜アップデートし、引き続きエビデンスに基づく議論を深めていくことが重要です。人口減少と経済成長の関係は一筋縄ではいきませんが、本記事がその複雑なテーマを考える一助となれば幸いです。

【参考資料】日本厚労省「人口動態統計」、国立社会保障・人口問題研究所「将来推計人口」、IMF・世界銀行各種データ、各国政府発表、報道資料(ブルームバーグ、ロイター、日経他)bloomberg.co.jp reuters.com bworldonline.comなど。各種データは特に断りのない限り2023~2024年時点の最新値を使用しています。