2025年8月時点の日銀政策金利0.5%が2027年までに1.25%に上昇すると仮定し、株式・不動産・債券・為替・コモディティ(金)・暗号資産・現預金の各資産にどんな影響が及ぶかを徹底解説。利上げで得をする資産と損をする資産を比較表や過去事例を交えてわかりやすく説明し、今後の市場動向や投資戦略のヒントを探ります。

日銀利上げ時代の到来と資産運用への問い

17年間続いたゼロ金利政策がついに転換点を迎えました。日本銀行は2024年にマイナス金利を解除し、2025年1月には政策金利を0.25%から0.5%へ引き上げました。これは2008年の金融危機以降で最高水準の金利であり、日本にとって「金利のある世界」への一歩です。今後も持続的なインフレと賃上げ動向を見極めつつ、日銀は追加利上げの可能性を示唆しており、2027年までに政策金利が1.25%に達するシナリオも現実味を帯びています。

金利上昇(利上げ)は、企業や家計の資金コストから資産価格まで、経済全体に多大な影響を及ぼします。超低金利に慣れていた私たちの資産運用環境も大きく変化しつつあります。「お金の値段」とも呼ばれる金利が上がるとき、一体どのような資産クラスが“得”をし、どの資産が“損”をするのでしょうか。長期投資家からサラリーマン、投資初心者まで、幅広い資産形成層の皆さんに向け、本記事では利上げ局面における主要な資産クラス別の影響をわかりやすく解説します。

まずは結論をざっくり言えば、金利上昇は「お金に利息がつく喜び」が戻る反面、「借金や投資のコスト」が重くなる現象です。これは資産運用の世界では「潮目の変化」を意味します。金利という大波が引き起こす変化によって、資産ごとに明暗が分かれるのです。以下では比較表を使って、利上げで有利になる資産と不利になる資産をひと目で整理し、その後に各資産クラスごとの詳細な分析と今後の展望を述べていきます。

利上げ局面で得する資産・損する資産(比較表)

利上げ時にプラスの影響を受けるかマイナスの影響を受けるか、主要資産クラスごとの傾向を以下の表にまとめました。直感的に把握するため、上昇(プラス)要因には「↑」、下落(マイナス)要因には「↓」を付しています。

資産クラス利上げの影響ポイント概要
株式基本的にマイナス(値下がり圧力↓)借入コスト増で企業利益が圧迫。特に成長株や高負債企業に下押し圧力。一方で銀行・保険株など金融セクターは利ざや拡大で恩恵。円高で輸出株に逆風、輸入企業には追い風。
不動産マイナス(値下がり圧力↓)住宅ローン金利上昇で購買意欲減退、需要減により価格下落圧力。投資用不動産も利回り低下で売り圧力。ただし利上げ前の駆け込み需要で一時的上昇もあり得る。
債券マイナス(価格下落↓)金利上昇=新発国債利回り↑。既存債券の価格は下落。特に長期債ほど値下がり大。利上げにより国債利回りは上昇し、2025年には2年債が0.7%台に達する場面も出現。
為替(円)プラス(円高方向↑)円金利上昇は円の魅力アップにつながり資金流入。結果として円高が進みやすい(ドル安円高方向)。輸入品価格下落で国内物価安定に寄与。反面、円高は輸出企業の収益悪化要因。
コモディティ(例:金)一般にマイナス(下落圧力↓)金(ゴールド)は無利息資産のため、金利上昇局面では相対的魅力低下で売られやすい傾向。【注】ただしインフレやリスク懸念が強い局面では例外も。実際2024〜2025年にかけて金価格は急騰し、2025年初5か月で約25%上昇し1オンス=3,300ドルに達する場面もありました。
暗号資産マイナス(下落圧力↓)ビットコインなど暗号資産はハイリスク資産とみなされ、金利上昇やドル高局面では下押し圧力。逆に金融緩和や利下げ局面では資金流入しやすく価格上昇を後押し。
現預金プラス(利息増↑)預金金利が上昇し、タンス預金にも利子が付く恩恵。ネット銀行中心に定期預金金利1%超の動きも登場。ただし物価上昇率との兼ね合いに注意(実質金利次第では購買力が目減りする可能性)。
注: 上記は一般的な傾向をまとめたもので、実際の市場では他の要因も影響します。以下、各資産について過去の事例や2025年時点のデータ、専門家の見通しを踏まえ詳しく見ていきましょう。

目次

  1. 株式 – 金利上昇局面の株価への影響
  2. 不動産 – 住宅市場・不動産投資はどう動くか
  3. 債券 – 債券価格と利回りの行方
  4. 為替 – 円高とその波及効果
  5. コモディティ(金など)– インフレと安全資産の明暗
  6. 暗号資産 – 仮想通貨マーケットへの逆風と展望
  7. 現預金 – 預金金利復活による家計への影響
  8. まとめ – 金利上昇時代の資産形成戦略

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1. 株式 – 金利上昇局面の株価への影響

金利が上がるとき、株式市場は真っ先にその波をかぶります。基本的なメカニズムとして、利上げは株価に下落圧力をもたらすとされています。理由はシンプルで、企業が支払う借入金利が上昇し、設備投資や事業拡大のコストが高くなるためです。例えば、銀行からお金を借りて成長している企業にとって、金利という「お金のレンタル料」が上がるのは利益を圧迫する重荷となります。特に将来の成長期待が高く現在の利益より将来の利益に重きを置く成長株では、将来キャッシュフローの現在価値を割り引く際の利率(割引率)が上昇するため、株価が下押しされる傾向が強まります。

実際、2022~2023年にかけて米欧で急激な利上げが行われた際、ハイテク株を中心に株式市場が大きく調整したことは記憶に新しいでしょう(米ナスダック指数は2022年に約30%下落)。日本でも2022年末、日銀が長期金利上限を引き上げ事実上の利上げに踏み切った際に「日銀ショック」として日経平均が急落した例があります。このように、金利低下=株高、金利上昇=株安という関係は過去の経験則でも確認されています。

しかし、株式市場全体が冷え込む一方で、利上げの恩恵を受けるセクターも存在します。金利という光が当たれば影ができるように、逆に光が差し込む部分もあるのです。代表的なのが銀行株や保険株などの金融セクターです。銀行は貸出金利と預金金利の利ざやで稼ぐビジネスモデルのため、金利水準の上昇は一般に利ざや拡大=収益増に直結します。実際、メガバンクは0.1%の金利上昇で数百億円規模の増益になるとの試算もあります(例えば三井住友FGでは0.1%金利上昇で年間400億円の資金利益増とされています)。保険会社も運用利回り向上で収益改善が期待できます。2023年には欧米の金利上昇で既に国内金融機関は運用益が増え恩恵を受けており、今後は「国内金利上昇」という追い風が加わる見通しです。証券会社も金利上昇局面における債券売買の活発化で手数料収入増が期待できます。さらに、金利上昇で久々に預金という商品に魅力が出てくるため、銀行には資金が集まりやすくなる側面もあります。

また為替の円高も株式セクター間の明暗を分けます。利上げによる日米金利差縮小などから円高が進むと、輸出企業には逆風です。自動車・電子機器など輸出比率の高い企業は、円高により海外売上の円換算額が目減りし、競争力も削がれやすくなります。一方で、輸入に頼る企業や原材料コストが大きい業種にとって円高はメリットです。例えば、小売業や外食産業は輸入原材料が安くなり収益改善が期待できます。また航空会社など空運業は燃料をドル建て調達するため、円高になれば燃料費負担が軽くなります。実際、利上げ観測による円高を追い風に空運株が見直される動きも見られます。さらに円高になれば海外旅行に出かける日本人観光客も増える傾向があり(円の購買力向上)、レジャー産業など一部にプラス効果も考えられます。

以上をまとめると、株式全体では利上げ=マイナス要因ですが、「どの株も一律に下がる」わけではなく、セクターや企業の財務体質によって明暗が分かれるのがポイントです。高成長株・ハイテク株・負債依存の高い企業は金利上昇の逆風に注意が必要です。一方、金融株(銀行・保険)や内需輸入型企業には追い風となり得ます。2025年後半の日本株市場では実際に、利上げやインフレ定着を背景に「銀行・金融」の業績改善が期待されるとの声があり、メガバンク株が年初来高値を付ける場面もありました。投資戦略としては、金利上昇期にはポートフォリオの見直しが有効です。金利敏感度の高いハイテク・グロース株の比重を下げ、バリュー株配当利回りの高い株、利上げメリット業種に分散する動きも検討されます。また市場全体のボラティリティ上昇も予想されるため、積立投資による時間分散や、一喜一憂せず腰を据えた長期投資の姿勢がより重要になるでしょう。

2. 不動産 – 住宅市場・不動産投資はどう動くか

ゼロ金利時代に支えられてきた不動産市場も、利上げの影響から逃れられません。住宅ローン金利の上昇は、不動産市況における最大の重石となります。家やマンションを購入する多くの人にとって、ローン金利は月々の支払い額を左右する重大要因です。金利が1%上がると住宅ローンの返済額は数万円単位で増加するため、利上げは住宅購入のハードルを一気に押し上げます。その結果、マイホームを購入したい人の意欲が削がれ、不動産の買い需要が減退します。需要が減れば、当然ながら市場価格には下押し圧力がかかります。実際、2025年1月の日銀追加利上げ後、住宅ローン変動金利は民間銀行でじわり上昇に転じ、都市部の不動産価格にも伸び悩みの兆しが出始めたとされています。

特に投資用不動産(賃貸アパート・マンション)では、利回り(賃料収入からローン利息等を差し引いた利益)が低下するため、採算が合わなくなるケースも出てきます。融資を受けて賃貸物件を購入・運用している投資家にとって、利上げによる借入コスト増はキャッシュフロー悪化を招きかねません。とくに変動金利で融資を受けている場合、その影響は顕著です。利払い負担増で手残りが減れば、修繕費の捻出や空室リスクへの耐性も低下し、最悪の場合は物件の手放し(投げ売り)に追い込まれる可能性もあります。こうした投げ売りが増えれば市場価格の下落に拍車がかかる悪循環も懸念されます。

一方、利上げ=不動産価格下落と一概に決めつけられない点もあります。地域や用途によって影響が異なるためです。例えば、都心の一等地や人気エリアの不動産は、利上げ局面でも需要の底堅さから値持ちする可能性があります。むしろ「これから金利がもっと上がる前に買っておこう」と駆け込み需要が発生し、一時的に価格が押し上げられるケースも指摘されています。実際、2024年後半〜2025年前半にかけて東京23区のマンション賃料は上昇傾向が鮮明で、2024年11月には前年比+0.9%と30年ぶりの大幅上昇を記録しました。これは利上げによる貸し手側(大家側)のコスト増を受け、賃料に「便乗値上げ」を試みる動きが出たためとも報じられています。ただし既存の入居者に対しては日本の契約慣行上、一方的な家賃引き上げが難しいため(借地借家法による保護)、実際に家賃転嫁できるのは新規契約や更新時に限られます。そのため賃料の上昇も徐々に現れると考えられ、即座に家賃収入が増える万能薬にはなりません。

不動産投資の観点では、利上げ時代に備えて戦略の見直しが必要です。既に変動金利で物件を抱えている場合、今のうちに固定金利への借り換えを検討したり、手元流動性を厚くして金利上昇に備えることが重要と専門家は指摘しています。一方で、自己資金が豊富な人にとっては、不動産価格が下がる局面は現金一括購入の好機ともなりえます。ただし金利上昇局面では下落トレンドが長引く恐れもあるため、「まだ下がりきっていない段階で焦って買うより、ある程度底打ち感が出るまで様子を見るほうが良い」との助言もあります。不動産は流動性が低く一度買うと身動きがとりにくいため、金利環境が安定するまで慎重に検討する姿勢が大切です。

総じて、利上げは不動産市場にとって逆風です。不動産は「借金して買う」ケースが多いため、金利というコスト増は避けられず、価格にも下押し圧力がかかります。これから本格化する「金利上昇時代」を見据え、購入を検討している人は資金計画に余裕を持たせ、変動金利ローン利用者は金利上限のシミュレーションをして備えることが重要でしょう。投資家の方も、収益悪化に陥った物件は早めの見切り売却も選択肢に入れるなど、ポートフォリオの健全化に努めるタイミングと言えそうです。

3. 債券 – 債券価格と利回りの行方

債券(国債や社債)は金利そのものと言っても過言ではない資産クラスです。債券価格の変動要因の筆頭が「金利の変化」であり、両者はシーソーの関係にあります。金利が上がれば債券価格は下がり、金利が下がれば債券価格は上がる――まさに逆相関の関係です。利上げ局面では新発債の利回り(クーポン)が高くなる分、既存の低利回り債券は見劣りするため価格が低下します。たとえば額面100円・利率0.1%の既発債は、市場金利が1%になれば誰も額面どおりでは買いたがらず、価格を下げて利回りを釣り上げないと売れなくなります。このため利上げ時には債券市場で売り圧力がかかり、価格が下落するのです。

日本国債市場でも、利上げ開始後に長期ゾーンを中心に金利(利回り)が急上昇しました。日銀がイールドカーブ・コントロール(長期金利目標)を緩和した影響も相まって、2025年5月には30年物国債利回りが3.2%に達し、リーマンショック前の水準を超えたとの報道もあります。また2年債利回りも日銀0.5%利上げ直後に一時0.725%まで上昇し、こちらも2008年以来の高水準となりました。利回り急騰=価格急落ですから、長期債中心に保有債券の含み損が広がった投資家も少なくありません。「債券は安全」と言われますが、それは満期まで保有した場合の話であり、途中で売買する際には価格変動リスクがあることを改めて思い知らされた形です。特に超長期債は金利変動に対する価格感応度(デュレーション)が大きいため、少しの金利上昇で価格が大きく下落します。2024年から2025年にかけ、欧米の長期金利上昇もあって日本の超長期国債の下落幅は顕著であり、長期国債投資家には試練の相場となりました。

では、債券投資は利上げ局面に全く魅力が無いのかというと、そうでもありません。利上げが一巡し金利が十分高くなった局面では、新発債の利回りが魅力的になるからです。実際、2025年時点で10年物国債利回りは1%前後まで上昇し、市場では「日本国債にも投資妙味が出てきた」との声も聞かれます。大手格付会社Fitchは「2026年末までに10年債利回りは2%に達する」と予測しており、もしそこまで上がれば日本国債の利回りは実に15年以上ぶりの高水準です。そうなれば定期預金代わりに国債を買う個人マネーも増えるかもしれません。実際、米国では2022~2023年の利上げ後に国債利回り(3~5%台)が魅力と映り、個人投資家が安全な債券に資金をシフトする動きが見られました。日本でも金利が1%を超えてくると、「リスクを取って株を買わなくても、国債や社債で十分」という考えが広がる可能性があります。これは株式市場から債券市場への資金シフトを促し、株安要因にもなり得ます。

債券投資の戦略としては、利上げ局面では満期の短い債券や変動金利型債券へのシフトが有効です。期間が短ければ金利上昇による価格下落リスクも限定的で、むしろ早期に再投資して高い利回りを得られます。2025年現在、個人向け国債でも変動金利型の10年満期国債が人気を集めています(金利上昇に応じてクーポンが上がるためインフレに強い)。また利上げ局面の後半では、今度は将来の利下げ局面を見据えて長期債を仕込むという逆張り戦略も考えられます。金利がピークを打てば、長期債価格は上昇に転じ得るからです。もっともタイミングの見極めはプロでも難しく、個人投資家が無理に金利予想で勝負する必要はないでしょう。基本に立ち返り、分散投資と長期保有で債券から安定収入を得る戦略が有効です。利上げによって日本国債の信用不安が高まるとの見方も一部にありますが、現状では直ちにそのリスクは顕在化していません。むしろ日本政府にとっては利払い負担増という課題(国債の利払い費は2023年度25兆円→2024年度27兆円に増加見込み)がありますが、金融機関や日銀が大量保有する国債に含み損が出ても直ちに破綻するわけではありません。債券投資家にとって重要なのは、この歴史的な低金利からの転換期に慌てず騒がず、適切なデュレーション管理を行いながら金利収入を享受していくことと言えます。

4. 為替 – 円高とその波及効果

日本の金利が上がれば、為替相場では円高方向への圧力が高まります。金利は通貨の魅力を決定づける大きな要因であり、日本の超低金利ゆえに進んでいた円キャリートレード(低金利の円で資金調達し他通貨資産へ運用)が巻き戻される可能性があるからです。実際、日銀が利上げを決定した直後、市場では円買いが優勢となり一時1ドル=154円台から152円台半ばまで円高が進む場面がありました。一般に利上げはその国の通貨価値を高める傾向があり、今回の日本も例外ではありません。2022年には米欧が先行利上げする中で日銀が動かなかったため円安が進行し、一時1ドル=150円台後半という歴史的な円安水準を記録しました。しかし2024~2025年に日銀が利上げに転じると、流れが変わり始めています。米国の利上げペースが鈍化・停止する中で日本が金利を引き上げれば、日米金利差は縮小し円の相対的魅力が増します。海外投資家にとっては円建て資産の利回りが魅力的になり、わざわざ為替リスクを取ってまでドル資産を持つインセンティブが低下します。こうして海外から日本への資金流入→円買いという動きが出やすくなります。

円高が進むと、日本経済には様々な影響が及びます。まず輸入品の価格が下がるメリットがあります。原油や天然ガス、小麦など日本は多くを輸入に頼っていますが、円高になれば同じドル建て価格の商品をより安い円で買えるため、エネルギー価格や食料品価格の安定につながります。これはインフレ抑制に寄与し、家計にとってはガソリン代や食費の負担軽減という嬉しい効果です。日銀が利上げを行う目的の一つも、実はこの「輸入物価の低下による物価安定」です。足元でも2023~2024年に高騰した輸入物価(エネルギー・穀物)が、円高基調でやや鎮静化し、日本の消費者物価上昇率は落ち着きを見せつつあります。

しかし円高は良いことばかりではありません輸出産業にとっては収益圧迫要因となります。トヨタやソニーのような製造業では、海外で上げた利益を円に換算する際に円高だと目減りします。また輸出製品自体もドル建て価格が割高になるため、競争力が低下しかねません。例えば1ドル=110円から130円に円安になったとき、日本企業は現地通貨ベースで値下げせずとも競争力が増しましたが、逆に110円に戻るとそのアドバンテージが消える計算です。2022年の円安局面では輸出企業の業績が軒並み追い風を受けましたが、今度は逆風となるため、株価でも自動車や電子部品株が売られる局面が見られました。「円高不況」という言葉がある通り、輸出立国日本にとって急激な円高は景気にマイナスです。

また、インバウンド(訪日外国人旅行)需要にも影響します。円安のときは「日本が安い国」になるため多くの観光客が訪れ消費を押し上げましたが、円高になると相対的に日本旅行のコストが上がるため、訪日客が減る可能性があります。実際、2023年にはコロナ後のリベンジ消費もあってインバウンド消費が盛り上がりましたが、円高が進むとその勢いが鈍る懸念があります。ただし逆に日本人の海外旅行には追い風です。長らく円安で海外旅行を控えていた層も、円高でヨーロッパやアメリカへの旅費が割安に感じられれば旅行に出るでしょう。このように円高・円安は「立場を変えれば損得も反転」する現象です。

投資の観点では、為替変動リスクに注意が必要です。外貨建て資産を保有する日本人投資家にとって円高は評価損につながります。たとえばドル建て米国株を持っている場合、円高が進むと円換算の資産価値は減少します。逆に外貨資産を持たない人(円預金中心の人)にとっては円高はプラスとも言えます。自国通貨が強くなることで購買力が高まり、将来海外旅行や輸入商品購入の際に有利だからです。ただ、投資という点では急激な円高はリスク資産からの資金流出を伴うことが多いため、為替ヘッジをしていない海外株・海外債券ファンドなどは注意が必要です。

今後の見通しとして、専門家の間では「日銀の利上げは緩やかなものに留まり、極端な円高にはならない」との見方もあります。Oxford Economicsの予測では「2025~26年は追加利上げなく現状維持し、2027年に0.75%へ引き上げる程度」というシナリオも示されており、この場合円高も徐々に進むにとどまるでしょう。一方で米国が利下げに転じれば日米金利差縮小で円高圧力がさらに強まる可能性もあります。例えば米連邦準備理事会(FRB)が景気減速で利下げを開始すれば、相対的に日本の利上げが際立ち、ドル安・円高が進行しやすくなります。実際2024年末時点で市場は米の金融緩和観測を織り込み始め、円相場はやや持ち直しました。為替は金利だけでなく景気・リスク要因にも左右されますが、「金利上昇=円高バイアス」はしばらく頭に入れておくべきでしょう。

為替リスク管理としては、外貨建て投資をする際に為替ヘッジ付きの商品を利用したり、ポートフォリオ全体で外貨資産比率を高くしすぎない工夫が考えられます。また急激な円高局面では、為替差損を避けるために一時的にポジション縮小や利益確定を検討するのも一策です。ただし長期的には、日本人にとって海外分散投資は依然重要です。多少の為替変動は長い目で見れば相殺されるとの考え方もあり、為替に一喜一憂しすぎず基本に忠実な資産配分を続けることも大切でしょう。

5. コモディティ(金など)– インフレと安全資産の明暗

コモディティとは、金や銀といった貴金属、原油などエネルギー、穀物などの商品全般を指す資産クラスです。その中でも個人投資家に馴染み深いのは金(ゴールド)でしょう。利上げ局面におけるコモディティの動きは一概に語るのが難しいですが、代表として金を中心に考えてみます。

金は「金利がつかない資産」であり、その価値は実物そのものの希少性と信頼に基づいています。従って、金利上昇=金利を生む資産の魅力相対的向上を意味し、金にはマイナスに働くのが一般論です。投資家心理としても、債券や預金で利息がもらえるなら、利息を生まない金を持つ旨味は薄れるからです。事実、過去には米金利が上昇局面に入ると金価格が下落基調となったケースも見られました。

しかし現実の市場では、金利と金価格の関係は単純な逆相関に留まらないことが多々あります。金は「逆説的な資産」でもあり、利息がつかないのになぜか価格が上がる状況が生まれるのです。2022年以降が典型例です。世界的にインフレが加速し各国が利上げに動いたにもかかわらず、金価格は史上最高値圏まで上昇しました。特に2024年は金市場が大きく動いた年で、ニューヨーク金先物価格は同年10月末に1トロイオンス=2,800ドルに達し、前年末(約2,070ドル)から730ドルもの急騰を見せました。年間上昇幅として過去最大級の上げ幅であり、「なぜ利上げ局面なのに金がこんなにも上がるのか」と話題になりました。

この背景にはいくつかの要因があります。第一にインフレヘッジ需要です。利上げはインフレ退治の手段ですが、裏を返せばインフレが深刻だからこそ利上げせざるを得ない局面でもあります。将来の通貨(法定通貨)の価値目減りを懸念した投資家や中央銀行は、紙幣を増刷できない実物資産である金を買い増す傾向があります。現に2020年代に入り各国中央銀行が金準備を増やしており、特にロシア・中国をはじめ「脱ドル化」の一環で金を買う動きが強まりました。こうした中央銀行の金需要は金価格の下支え要因となっています。

第二に、地政学リスクや金融不安に対する安全資産需要です。金は「有事の金」と言われ、株式や債券が動揺する局面で資金の逃避先となります。利上げ局面では往々にして景気減速や債務問題などリスクイベントも起こりがちです。例えば利上げの副作用で新興国から資金流出が起きたり、過剰債務を抱えた企業が破綻したりといった不安材料が浮上すると、人々は金の現物を求めます。2024年前半には米国の地方銀行破綻が相次ぎ一時金融不安が高まりましたが、その際も金価格は上昇しました。「株も債券も信用できない、現金もインフレで目減りするかも…」という心理になると、最後の頼みの綱として金や銀といった実物資産が買われるのです。

第三に、ドルとの関係です。金はドル建てで取引されるため、ドル相場とも逆相関の傾向があります。利上げ局面で米ドル高が進むと通常は金は割高感から売られますが、もし利上げによって米景気が減速し将来的な利下げ観測が出ると、先にドルが下落に転じ金が上がる場合もあります。2024年後半には米国の利上げ打ち止め期待からドル指数が下落基調となり、それも金価格の追い風となりました。「アメリカが利下げに転じれば金の魅力が高まる」という見立てです。

こうした複合要因により、2025年中頃には金価格が初めて1オンス=3,000ドルの大台を突破しました。State Street社のレポートによれば、2025年初の金価格急騰により金は主要マクロ資産クラス中トップのリターンを記録したとのことです。つまり株式や債券を凌ぎ、金が「勝ち組資産」となったわけです。このように、利上げ=金安のセオリーに反して金が買われる局面も存在します。

以上を踏まえると、コモディティ全般の動きは一枚岩ではないことがわかります。エネルギーや工業用金属などは景気動向に影響されやすく、利上げで景気減速すれば需要減少から下落しやすいです。一方で、金や銀などは安全資産としての側面が強く、利上げ局面でもインフレ懸念やリスクオフで買われることがあります。実際、2022年の急激な利上げ時には原油価格は夏以降下落に転じましたが、一方で金は底堅く推移しました。

では今後の見通しはどうでしょうか。2025年後半以降、仮に世界的にインフレが落ち着き各国が利下げに転じる局面では、金の上昇基調は一服する可能性があります。すでに相当織り込まれた感もあるためです。しかし、長期的には各国の高債務問題や地政学リスク(米中対立や地域紛争など)がくすぶっており、「低ボラティリティで分散効果のある安全な逃避先」として金への需要は根強いと予想されています。2025年の時点で専門家は「金価格の下値は従来の2000ドル台から3000ドルに切り上がった」としており、強気シナリオでは半年〜9ヶ月で4000ドル近くまで上昇し得るとも分析されています。もっとも、これらはかなり極端なシナリオ(スタグフレーションや急激なドル離れなど)が前提ですので、鵜呑みにはできません。

投資戦略として、金利上昇期にコモディティ投資をするなら銘柄選別が重要です。インフレヘッジ目的で金そのものを一定割合保有するのはポートフォリオの安定に有効です。ただし価格変動も大きいので、入れすぎは禁物でしょう。一方、原油や銅など景気敏感な商品は、利上げで景気減速すると軟調になる傾向があるため、景気サイクルを見極めた投資が求められます。コモディティは価格のボラティリティが高く、先物など専門的な知識も必要な分野です。初心者にはETFや投資信託で分散投資する方法もあります。例えば金ETFや資源株ファンドなどを活用すれば、小口からコモディティエクスポージャーを持つことができます。総じて、利上げ局面ではコモディティも一筋縄ではいきませんが、インフレヘッジ・リスク分散の観点から適切に組み入れることで、金利変動に強いポートフォリオ構築に役立つでしょう。

6. 暗号資産 – 仮想通貨マーケットへの逆風と展望

ビットコインを代表とする暗号資産(仮想通貨)の市場も、金利動向と無関係ではいられません。近年の暗号資産は「デジタルゴールド」とも称され、一部ではインフレヘッジや価値保存手段と期待する声もあります。しかし現実には、暗号資産市場はむしろハイリスク・ハイリターンな投機色が強く、株式やハイテク企業の動向と連動する面が大きいのが特徴です。つまり、流動性がジャブジャブのとき(低金利・金融緩和)に急騰し、金融引き締め時(高金利)に急落する傾向が見られます。

実際、2020年〜2021年のコロナ禍に主要国がゼロ金利・大規模緩和に踏み切った際、溢れたマネーは暗号資産にも流入し、ビットコイン価格はわずか1年半で10倍以上に跳ね上がりました。しかし、その反動は早くも現れます。米FRBがインフレ抑制のため2022年から急速な利上げに転じると、真っ先に調整したのが暗号資産市場でした。ビットコインは2021年末の史上最高値約6.8万ドルから、翌2022年末には1.6万ドル台まで約75%も暴落しました。要因はいくつかありますが、大きいのは金利上昇=投資マネーの引き締めという構図です。ゼロ金利で行き場のなかった資金がリスク覚悟で仮想通貨にまで流れていたものが、高金利で安全に運用できる環境になると引き上げられてしまうのです。また、金利上昇局面ではベンチャー企業や投機的事業への資金調達も困難になるため、暗号資産関連企業(取引所やマイニング企業など)の経営にも逆風となりました。

専門家は「暗号資産マーケットは実質金利に敏感」と指摘しています。実質金利(名目金利-インフレ率)が低下する局面ではビットコインは上昇しやすく、逆に実質金利が上昇(つまり中央銀行が金融引き締めに動く)と下落圧力がかかるという分析です。まさに2020〜21年は実質金利マイナスでビットコイン急騰、2022年は実質金利急上昇で急落という動きでした。このため、米FOMC(連邦公開市場委員会)の動向がビットコイン価格を揺さぶる理由も「金利→ドル高/ドル安→リスク資産需要」という経路で説明できます。実際、金利上昇やドル高はビットコインの下押し要因であり、逆に利下げや量的緩和はビットコインの価格上昇を後押ししてきました。

では、日本の利上げは暗号資産市場にどう影響するでしょうか。日本は暗号資産市場において世界的な資金シェアはそれほど大きくありませんが、円キャリー取引の巻き戻しが起きれば間接的な影響は考えられます。超低金利時代には、日本円を借りてビットコインなど海外リスク資産に投じる動きもあったと言われます。その意味で、日銀の利上げで調達コストが上がれば、仮想通貨への投資資金が細る可能性があります。また、円高になればドル建てで動くビットコインの円換算価格は下がりやすくなります(同じ1BTC=$30,000でも1ドル110円と150円では円換算額が違う)。従って、日本人投資家から見ると円高局面ではビットコインは割安に映ります。逆に円安だとビットコイン価格は円建てでは上がって見えます。このように為替も絡むため一概に評価しにくいですが、重要なのは「日本も含めた世界的な金融引き締め環境は暗号資産に不利」という大局でしょう。

もっとも、2023年後半から2024年にかけてビットコインは一時持ち直しを見せました。利上げサイクル終了期待が出たことに加え、米国でビットコインETF承認観測が高まったことなど特殊要因もありました。2025年にはビットコインが再び強気相場に入るとの見解を示す専門家もいます。米大手証券バーンスタインは「2024年~2027年にビットコイン強気相場が継続し得る」と分析し、理由に機関投資家の参入拡大や需給タイト化を挙げています。とりわけ2024年春に予定されるビットコインの半減期(マイニング報酬半減)後は、新規供給減によって価格が上がりやすい周期との声もあります。こうした要因は金利動向と別個に存在するため、一概に「利上げだから暗号資産はダメ」とも言い切れません。

総合的に見て、利上げ局面では暗号資産は他のリスク資産同様にボラティリティが高まりやすく、慎重な対応が必要です。資金繰りが引き締まれば、ハイリスクな仮想通貨への投資資金は真っ先に縮小します。一方で、暗号資産には熱心な支持者や将来の技術的価値を信じる層も多く、市場が成熟する中で一時の熱狂から実需主体へと変化しつつあります。長期投資の視点では、短期的な金利変動に右往左往せず、自身のリスク許容度内で少額から積み立てるなど冷静なアプローチが望ましいでしょう。特に初心者の方は、価格急落時にもパニック売りしないよう、資産全体のごく一部でビットコイン等を保有するに留めるのが無難です。また、将来的に金融緩和に転じれば暗号資産市場に再び追い風が吹く可能性もあるため、「冬の時代」に仕込んでおく戦略も考えられます。ただしこれはハイリスクでもあるため、くれぐれも余裕資金で行い、他の資産とのバランスを取ることが重要です。

7. 現預金 – 預金金利復活による家計への影響

最後に、最も身近な資産である現金・預金についてです。超低金利時代、日本の普通預金金利は0.001%程度(100万円預けても年間10円の利息!)という“無利子同然”の状況が長く続きました。しかし利上げによって、ようやく預金にも「利息」というご褒美が戻りつつあります。日銀が政策金利を引き上げると、市中銀行もそれに合わせて預金金利を段階的に引き上げる傾向があります。もっとも、政策金利が上がったからといって全ての銀行が同率で預金金利を上げるわけではありません。メガバンクなどはなかなか金利を上げず、ネット銀行や新興銀行が積極的に金利キャンペーンを打ち出す展開が見られます。

2025年8月現在、普通預金金利はメガバンクで0.2%程度、ネット銀行では0.1~0.2%程度まで上昇しました。定期預金に至っては、SBJ銀行が新規口座限定で1年定期に年1.20%を提供するなど1%超えの高金利定期も出現しています。ゆうちょ銀行(日本郵政)も2025年3月に通常貯金金利を0.001%→0.2%に引き上げ、定額貯金も軒並みアップさせました。これは小幅とはいえ歴史的な変化です。預金者からすれば「銀行にお金を預けてもスズメの涙」という嘆きが少し和らぎ、コツコツ貯金にも意味が出てくる環境と言えます。特に高齢者などリスク資産を持たない層にとって、預金利息収入の増加は家計の底上げにつながります。長らく0金利に苦しんだ年金生活者にとっては、ようやく利息が暮らしを多少潤してくれる状況です。

ただし注意すべきは、インフレ率との関係(実質金利)です。仮に預金金利が0.2%でも、物価が毎年2%上がっていては実質的には資産の購買力は減っています。2024年頃から日本の物価上昇率は2~3%前後を推移しており、預金金利の上昇がそれに追いつかなければ「利息は付くけど実質目減り」という状況も起こりえます。利上げは物価抑制策でもあるため中長期的には物価も落ち着く期待がありますが、短期的には電気代や食品など生活必需品の値上げが続いており、預金利息だけではカバーしきれません。したがって、現預金は安全資産ではありますが、インフレ局面では持ちすぎると実質価値が目減りするリスクも頭に入れておく必要があります。

それでも「利息がつく現預金」の魅力は大きいです。特にリスク資産に抵抗がある方にとって、ほんの数年前まで0.01%にも満たなかった金利が0.5~1%でも付けば十分という向きもあるでしょう。家計運用の基本は生活費の数ヶ月~半年分を現預金で確保し、残りを投資に回すといったバランスですが、この流動資金部分が少しでも利を生むのは良い傾向です。「金利があるって素晴らしい!」と預金のありがたみを再認識する人も多いでしょう。

銀行側も、顧客離れを防ぐために金利上乗せキャンペーンやポイント還元策などを強化しています。これは預金者にとってチャンスで、キャンペーン定期を上手に使えばメガバンクの何十倍もの利息を得ることも可能です。一方で、住宅ローンなど借り手側からすると金利上昇はコスト増となるため、家計全体ではプラスマイナス様々です。住宅ローンを抱える家庭は返済額増で可処分所得が減る一方、預金には利息が付くという複雑な状況になります。日本全体で見れば、家計は金融資産が金融負債を上回っている(つまり預金や株を多く持ち、借金はそれほど多くない)ため、利上げは家計部門におおむねプラスとも言われます。特に現金貯蓄が多い高齢世帯にはプラス、住宅ローン残高が多い子育て世帯にはマイナス、といった具合に影響は世代によって異なるでしょう。

投資初心者や預金派の方にとって、利上げ局面は「預金だけでも悪くないかな」と感じられる時期かもしれません。しかし前述のように、インフレ進行時は預金だけでは購買力が落ちるリスクもあります。長期的な資産形成にはやはり分散投資が有効であり、預金(金利収入)+債券(クーポン収入)+株式(配当・値上がり益)+その他とバランスよく持つことで、それぞれの弱点を補えます。利上げで預金金利が上がったとはいえ、まだインフレ率を下回る水準ですし、海外と比べれば低いままです。預金は安心料として必要最小限を確保し、余裕資金は資産運用へ回すというスタンスはこれからも有効でしょう。ただ、超低金利の時代に比べれば「預金にもそこそこ利息が付く」ので、精神的な安心感は増します。安全資産としての現預金の価値が相対的に高まった点は、利上げ局面のメリットと言えます。

8. まとめ – 金利上昇時代の資産形成戦略

2020年代後半、日本は長いデフレとゼロ金利のトンネルを抜け、緩やかな金利正常化への道を歩み始めました。政策金利0.5%(2025年8月時点)からさらに1%台へ向けた利上げが進むシナリオの中で、私たちの資産形成も新たな局面を迎えています。利上げ局面で「得をする資産・損をする資産」を見てきましたが、実際には各資産クラスごとにメリット・デメリットがあり、一長一短です。本稿で整理した内容を簡潔に振り返ってみましょう。

  • 株式: 全体としては企業収益圧迫や資金流出で逆風。ただし金融株や円高メリット株など一部セクターは恩恵を受ける。成長株よりバリュー株、有配当株が相対的に有利との見方も。過去の利上げ局面では株価変動が激しくなる傾向があり、分散投資とセクター選別が重要。
  • 不動産: 住宅ローン金利上昇で需要減退、価格下落圧力。賃貸利回り低下で投資環境も厳しく、変動金利ローン利用者は注意。ただ一部優良エリアは底堅さも。今後も緩やかな利上げ継続なら、徐々に不動産市況の二極化が進む可能性。
  • 債券: 金利上昇で価格は下落するが、新発債の利回り上昇で将来的な収益機会は増大。利上げ一巡後は債券への再評価も。短期債や変動金利債で金利上昇に対応しつつ、ピーク時に長期債を仕込む戦略も考えられる。【債券=安定資産】のはずが価格変動もあり得る点には引き続き留意。
  • 為替(円高): 日銀利上げと他国利下げの組み合わせで円高基調。輸入コスト低減で物価安定・家計プラス、輸出企業収益やインバウンド需要にはマイナス。為替は資産価値を左右するため、外貨資産保有者はヘッジ検討も。急激な変動への備えとして分散投資が有効。
  • コモディティ(金等): 金利上昇は一般にコモディティ価格に下押し圧力だが、インフレや安全需要次第で金価格は上昇も。原油などは景気減速で弱含むリスク。金は長期分散の観点でポートフォリオの一部に組み入れる価値あり。利上げ局面後半には各国の金融政策転換(利下げ)も視野に入れ、柔軟に比率調整を。
  • 暗号資産: 流動性縮小でボラティリティ増大、概ね逆風。過去には米利上げ局面で急落したが、市場拡大や半減期など独自要因も絡む。投機的な値動きには十分注意し、資金管理を徹底する。将来の金融緩和局面では再評価の可能性もあるが、余裕資金で小規模にが鉄則。
  • 現預金: 安全資産として相対的価値向上。利上げで普通預金・定期預金金利が上昇し、預金者に恩恵。ただし物価上昇率との兼ね合いを考え、預金だけでは資産が目減りするリスクも。引き続き預金+投資のバランスが重要だが、「預金にも利息が付く喜び」は素直に享受して良い。

こうした傾向を踏まえ、長期の資産形成では依然として「分散」が王道です。利上げ局面だからといって極端にポートフォリオを偏らせるのではなく、様々な資産を組み合わせて持つことで、ある資産の不調を他でカバーする発想が大切です。例えば、利上げで株と債券が不安定でも、金や現金がクッションになるかもしれませんし、円高でも海外資産の為替ヘッジで対応できます。異なる値動きをする資産をバランスよく保有することで、大きな経済ショックにも耐えうるポートフォリオを築けるでしょう。

また、金利サイクルを意識した中長期的視点も有用です。歴史的に見れば、利上げの後にはいずれ景気減速や物価沈静化が訪れ、中央銀行は再び利下げに転じます。「春(金融緩和相場)・夏(過熱相場)・秋(引き締め相場)・冬(景気減速)」という株式相場の四季になぞらえる見方もあります。今は金融引き締めの秋から冬に差しかかる局面かもしれませんが、その先にはまた春が巡ってくる可能性があります。従って、「冬の間に種を蒔き、春を待つ」ような心構えで、割安になった資産にコツコツ投資を続けるのも一策です。実際、長期積立投資をしている人にとっては、価格が下がったときに多くの口数を買える今こそ将来のリターン機会と捉えることもできます。

一方で、利上げ局面では感情的な売買に走らないことも重要です。金利が上がったからといって焦って資産を入れ替えるのではなく、基本方針に沿って淡々とリバランスするのが賢明です。むしろ、この機会に自分の資産配分を再点検し、必要ならポートフォリオを組み直す良い契機と捉えましょう。例えば「債券と株式だけだったけど、不動産やインフラ資産も少し組み入れてみよう」「円資産と外貨資産の比率を見直そう」といった具合に、変化に強い構成を模索することです。

最後に強調したいのは、利上げ局面も永遠に続くわけではないという点です。経済は循環します。重要なのは、その時々の局面で右往左往するのではなく、大きな潮流を捉えつつも長期の視点でぶれない軸を持つことです。長期投資家であれば、「金利が上がったから終わり」ではなく「久々に金利が復活した恩恵も活かしながら、次のステージに備える」という前向きな姿勢で臨みたいものです。日銀の金融政策転換は確かに大きなイベントですが、それに振り回されず自然体で資産形成を続けることこそ、将来の豊かな果実を得る秘訣と言えるでしょう。

以上、利上げ局面における各資産クラスの影響と展望を見てきました。皆さんの資産状況やリスク許容度によって最適な戦略は異なりますが、本記事の内容がヒントとなり、直感的に理解しづらい金利と資産の関係が少しでもクリアになれば幸いです。

終わりに、詩人シェリーの言葉 「冬来たりなば春遠からじ」 を資産形成に重ねてみましょう。
利上げや景気減速といった逆風の時期は、投資家にとってまさに「冬」のように厳しく、耐え忍ぶ場面も多いものです。しかしその冬は永遠には続きません。やがて金利の安定や景気回復という「春」が巡ってきます。

投資の本質は、この自然のサイクルを受け入れ、嵐の中でも種をまき続けることです。下落相場や利上げ局面に焦って行動するのではなく、むしろ長期的に見れば割安な資産を仕込む好機と捉えることができます。やがて訪れる「春」に大きな芽を出すために、冬の間にどれだけ準備できるかが未来を左右するのです。

つまり、利上げという一見厳しい環境も、長期投資家にとっては希望への序章にすぎません。
「冬来たりなば春遠からじ」──この言葉を胸に、目先の変動に一喜一憂せず、次の季節を見据えた資産形成を続けていきましょう。

参考資料・出典