日本銀行による利上げや長期金利の上昇が話題になると、株式市場では銀行株が注目されることがあります。
一般的に、金利の上昇は借りる側にとって負担になります。しかし、お金を貸す側である銀行にとっては、収益を増やす機会になる場合があります。
ただし、金利が上がれば、すべての銀行株が必ず上昇するわけではありません。
銀行株を理解するうえで重要なのは、金利そのものではなく、銀行が受け取る金利と支払う金利の差である「利ざや」です。
この記事では、金利が上がると銀行株が上がりやすい理由と、投資するときに注意したいポイントを解説します。
1.金利が上がると銀行株が上がりやすい理由
金利が上がると銀行株が上がりやすい主な理由は、銀行の「利ざや」が広がり、利益が増えると期待されるからです。
銀行は、個人や企業から預金を集め、その資金を住宅ローンや企業向け融資などに回しています。
預金者に対しては預金金利を支払い、住宅ローン利用者や企業からは貸出金利を受け取ります。
この貸出金利と預金金利の差が、銀行にとって重要な収益源になります。
銀行の基本的な金利収入
貸出や有価証券から受け取る利息-預金者や市場に支払う利息
たとえば、銀行が企業に年1%でお金を貸し、預金者には年0.1%の金利を支払っている場合、単純な金利差は0.9%です。
金利上昇によって貸出金利が年2%に上がり、預金金利が年0.5%にとどまれば、金利差は1.5%に広がります。
このように、受け取る金利の上昇幅が支払う金利の上昇幅を上回れば、銀行の利益が増えやすくなります。
銀行の利益が増えれば、増配や自社株買いなどの株主還元も期待されるため、銀行株が買われやすくなるのです。
ただし、銀行の利益は利ざやだけで決まるわけではありません。手数料収入、人件費、システム費用、貸し倒れ、保有する債券の損益なども関係します。
そのため、「金利上昇=銀行の利益が必ず増える」とは限らない点には注意が必要です。
2.利ざやが広がる仕組みを具体例で解説
利ざやの変化を、100万円を貸し出す場合で考えてみましょう。
金利が低い場合
- 貸出金利:年1.0%
- 預金金利:年0.1%
- 金利差:0.9%
銀行が100万円を年1.0%で貸し出すと、年間1万円の利息を受け取ります。
一方、その資金に対して預金者へ年0.1%の金利を支払う場合、支払う利息は年間1,000円です。
単純化すると、銀行に残る金利差は年間9,000円になります。
金利が上がった場合
- 貸出金利:年2.0%
- 預金金利:年0.5%
- 金利差:1.5%
貸出金利が年2.0%になると、銀行が受け取る利息は年間2万円です。
預金金利が年0.5%になった場合、預金者へ支払う利息は年間5,000円です。
その結果、銀行に残る金利差は年間1万5,000円になります。
| 項目 | 金利が低い場合 | 金利が上がった場合 |
|---|---|---|
| 貸出金利 | 1.0% | 2.0% |
| 預金金利 | 0.1% | 0.5% |
| 金利差 | 0.9% | 1.5% |
| 100万円に対する金利差 | 年間9,000円 | 年間1万5,000円 |
これは銀行の仕組みを説明するために単純化した例です。実際には、銀行は預金以外にも市場から資金を調達し、融資以外にも国債や社債などで運用しています。
また、人件費や店舗費用、システム費用なども発生します。
それでも、銀行は非常に大きな金額を扱っているため、金利差がわずかに広がるだけでも、全体の利益に大きな影響を与える可能性があります。
3.なぜ貸出金利の方が上がりやすいのか
金利が上昇する局面では、貸出金利が預金金利よりも早く上昇する場合があります。
その理由は、企業向け融資や変動金利型住宅ローンの一部が、短期金利や市場金利などを基準に決められているからです。
政策金利や市場金利が上がると、銀行は新しく貸し出す融資の金利を引き上げたり、変動金利型融資の金利を見直したりします。
一方、普通預金金利は、貸出金利と必ず同じ速さで上がるわけではありません。
そのため、貸出金利が先に上がり、預金金利の上昇が比較的緩やかであれば、銀行の利ざやが広がります。
貸出金利の上昇幅が、預金金利の上昇幅を上回ると、銀行の利ざやは改善しやすくなります。
ただし、すべての貸出金利がすぐに上がるわけではありません。
固定金利で契約されている住宅ローンや企業融資は、契約期間中の金利が変わらない場合があります。
また、銀行間で預金獲得競争が激しくなると、銀行は預金者を集めるために預金金利を大きく引き上げる可能性があります。
したがって、貸出金利と預金金利のどちらが早く上がるかは、銀行の顧客構成、融資内容、預金の種類、競争環境によって異なります。
4.銀行株は利益が増える「期待」で買われる
株価は、現在の利益だけで動くわけではありません。
将来の利益が増えると投資家が予想すれば、実際に利益が増える前から株が買われることがあります。
銀行株の場合、次のようなニュースが株価上昇のきっかけになる可能性があります。
- 日本銀行による追加利上げへの期待が高まった
- 国債利回りや長期金利が上昇した
- 貸出金利の上昇が予想された
- 銀行の利ざや改善が期待された
- 業績予想の上方修正が発表された
- 増配や自社株買いへの期待が高まった
つまり、銀行株は「金利が上がったから買われる」というより、金利上昇によって将来の利益が増えると予想されたときに買われやすいと考える方が正確です。
一方、利上げが正式に発表されたにもかかわらず、銀行株が下落する場合もあります。
これは、利上げへの期待がすでに株価に反映されていた可能性があるためです。
市場では、ニュースが発表される前から多くの投資家が将来を予想して売買しています。
そのため、正式発表の時点では新しい材料として評価されず、「材料出尽くし」と判断されて売られることもあります。
5.金利が上がっても銀行株が上がるとは限らない
金利上昇は銀行にとって追い風になる場合がありますが、同時に複数のリスクも発生します。
そのため、「利上げが行われたから銀行株は必ず上がる」と判断するのは危険です。
5-1.預金金利も大きく上昇する
銀行が融資から受け取る金利が上がっても、預金者へ支払う金利も同じように上がれば、利ざやは期待したほど広がりません。
特に、銀行同士の預金獲得競争が激しくなると、預金者を引き留めるために普通預金や定期預金の金利を引き上げる必要があります。
たとえば、貸出金利が1.0%上昇しても、預金金利が0.9%上昇すれば、金利差の改善は0.1%にとどまります。
高い預金金利やキャンペーン金利を提示して資金を集めている銀行は、預金を集めるためのコストが上がりやすい点に注意が必要です。
5-2.融資を利用する人や企業が減る
金利が上がると、住宅ローンや企業融資の返済負担が増えます。
住宅を購入する人が減ったり、企業が設備投資を延期したりすると、新しい融資の需要が弱くなる可能性があります。
銀行にとっては、貸出金利が上がっても、貸し出す金額そのものが減れば、利息収入が期待どおりに増えないことがあります。
そのため、銀行株を分析するときは貸出金利だけではなく、貸出金残高が増えているかも確認する必要があります。
5-3.貸し倒れが増える可能性がある
金利上昇によって企業や個人の返済負担が大きくなると、借入金を返済できない融資先が増える可能性があります。
銀行が融資した資金を回収できなくなることを、一般的に「貸し倒れ」といいます。
銀行は貸し倒れの発生に備えて、貸倒引当金を計上します。
貸し倒れが増えると信用コストも増加するため、利ざやが改善していても最終的な利益が減る可能性があります。
特に、景気が悪化している中で金利が急上昇する局面では、企業倒産や返済遅延が増えるリスクに注意が必要です。
5-4.保有する債券の価格が下がる
銀行は、集めた預金をすべて融資に回しているわけではありません。
国債、地方債、社債、外国債券などを保有し、利息を受け取りながら資金を運用しています。
一般的に、金利と債券価格は反対方向に動きます。
市場金利が上昇すると、過去に発行された金利の低い債券の魅力が低下するため、債券価格は下落しやすくなります。
銀行が金利の低い長期債券を大量に保有している場合、金利上昇によって含み損が拡大する可能性があります。
含み損があるだけで直ちに損失が確定するとは限りませんが、資金が必要になって債券を売却した場合には、実際の損失として計上される可能性があります。
5-5.金利上昇がすでに株価に織り込まれている
株式市場は、将来の変化を先回りして動きます。
利上げが正式に決定される前から、多くの投資家が金利上昇を予想して銀行株を買っていることがあります。
その場合、利上げ発表の時点では、すでに銀行株が十分に上昇している可能性があります。
予想どおりの内容しか発表されなければ、新しく銀行株を買う投資家が増えず、利益確定売りによって株価が下がることもあります。
重要なのは、利上げが行われたかだけではなく、市場がその利上げをどこまで予想していたかです。
6.銀行によって金利上昇の恩恵は異なる
同じ銀行株でも、金利上昇による影響は同じではありません。
銀行ごとに、預金の構成、融資先、固定金利と変動金利の割合、保有債券、海外事業などが異なるからです。
金利上昇の恩恵を受けやすい銀行の特徴
- 金利の低い普通預金を多く集めている
- 変動金利型の企業融資や住宅ローンが多い
- 貸出金残高が増加している
- 融資先の財務状態が比較的良好
- 長期の低金利債券を大量に保有していない
- 国内の資金需要が強い地域で事業を行っている
金利上昇の恩恵が限定される可能性がある銀行
- 預金を集めるために高い預金金利を提示している
- 固定金利型の融資が多い
- 貸出金残高が減少している
- 人口減少などによって地域の資金需要が弱い
- 低金利の長期債券を多く保有している
- 融資先の倒産や返済遅延が増えている
たとえば、低い金利で集めた普通預金を多く保有し、市場金利に連動する変動金利型融資が多い銀行は、金利上昇によって利ざやが改善しやすい可能性があります。
一方、預金金利を大きく引き上げなければ預金を維持できない銀行では、貸出金利が上がっても資金調達コストが増加します。
また、メガバンクは国内融資だけでなく、海外融資、証券、資産運用、クレジットカード、手数料ビジネスなど、複数の収益源を持っています。
地方銀行は国内金利上昇の影響を受けやすい一方、営業地域の人口や企業数、地域経済の状況にも左右されます。
そのため、銀行株を一括りにせず、それぞれの銀行の収益構造を確認することが大切です。
7.銀行株を分析するときに確認したい項目
銀行株を分析するときは、政策金利や長期金利の動きだけでなく、銀行が公表する決算資料も確認する必要があります。
7-1.預貸金利ざや
預貸金利ざやは、貸出金利から預金などの資金調達にかかる金利を差し引いたものです。
預貸金利ざやが前年よりも広がっていれば、銀行が預金と融資を通じて利益を得やすくなっている可能性があります。
ただし、預貸金利ざやの計算方法や公表方法は銀行によって異なる場合があるため、同じ銀行の過去の数値と比較することが基本です。
7-2.資金利益・純金利収入
資金利益や純金利収入は、融資や有価証券から得た利息収入から、預金や市場調達に支払った利息を差し引いた利益です。
金利上昇の恩恵が実際の業績に表れているかを確認する重要な項目です。
貸出金利が上がっていても、資金利益が伸びていなければ、預金金利や市場調達コストも上昇している可能性があります。
7-3.貸出金残高
貸出金残高は、銀行が企業や個人に貸し出している金額の合計です。
貸出金利が上昇しても、貸出金残高が大きく減っていれば、利息収入は期待したほど増えない可能性があります。
貸出金残高が増加しているか、国内企業向け融資や住宅ローンがどの程度伸びているかを確認しましょう。
7-4.預金残高と預金金利
銀行にとって預金は、融資や投資に使うための重要な資金です。
普通預金などの安定した預金を多く持つ銀行は、比較的低いコストで資金を調達できる可能性があります。
一方、預金残高が減っている銀行や、高い金利を提示しなければ預金を集められない銀行では、資金調達コストが上がりやすくなります。
預金残高が維持されているか、預金金利の上昇が利益を圧迫していないかを確認することが大切です。
7-5.信用コスト
信用コストは、融資先の貸し倒れや貸倒引当金の増加などによって発生する費用です。
利ざやが改善していても、信用コストが大幅に増加すれば、銀行の最終利益は減少する可能性があります。
信用コストが前年より増えていないか、大口融資先の経営悪化が発生していないかを確認しましょう。
7-6.有価証券の評価損益
銀行は国債、社債、外国債券、株式などの有価証券を保有しています。
金利上昇局面では、保有する債券の価格が下がり、評価損が拡大する可能性があります。
特に、残存期間の長い債券は金利変動の影響を受けやすいため注意が必要です。
決算資料では、有価証券の含み益や含み損、債券の残存期間、金利リスクへの対応などを確認します。
7-7.コア業務純益
コア業務純益は、銀行本来の業務によって得た基礎的な利益を確認するための指標です。
融資による資金利益や手数料収入から、人件費や店舗費用などの経費を差し引いて計算されます。
保有株式の売却益など、一時的な利益に頼らず、本業で利益を増やせているかを確認できます。
銀行の基礎的な収益力を見る際には、最終利益だけでなく、コア業務純益の推移も確認しましょう。
7-8.自己資本比率
自己資本比率は、銀行の財務健全性や損失への耐久力を確認するための指標です。
貸し倒れや債券価格の下落が発生しても、十分な自己資本があれば損失に耐えやすくなります。
自己資本比率が規制上の基準を上回っているか、前年より大きく低下していないかを確認することが重要です。
ただし、自己資本比率が高いだけで、必ず収益性が高いとは限りません。
収益力と財務健全性の両方を確認する必要があります。
8.金利上昇局面で銀行株を見る順番
金利上昇局面で銀行株を分析するときは、次の順番で確認すると分かりやすくなります。
- 政策金利と長期金利がどの方向に動いているか
- 利上げが今後も続くと予想されているか
- 銀行の貸出金利が実際に上昇しているか
- 預金金利がどの程度上昇しているか
- 預貸金利ざやが改善しているか
- 貸出金残高が維持または増加しているか
- 資金利益やコア業務純益が増えているか
- 信用コストが急増していないか
- 保有債券の評価損が拡大していないか
- 金利上昇への期待が株価に織り込まれていないか
最初に確認したいのは、金利の方向です。
ただし、政策金利が上がっているだけで投資判断を決めるのではなく、その金利上昇が銀行の決算にどのように表れているかまで確認する必要があります。
特に重要なのは、貸出金利と預金金利の差です。
貸出金利が上がっていても、預金金利や市場調達コストが同じように上昇していれば、利益改善は限定的になります。
次に、貸出金残高、信用コスト、有価証券の評価損益を確認します。
最後に、銀行の業績改善がすでに株価へ反映されていないかを、株価指標や過去の値動きから判断します。
銀行株は、金利だけでなく、利ざや・貸出金残高・信用コスト・債券損益をまとめて確認することが重要です。
9.よくある質問
金利が上がれば銀行株は必ず上がりますか?
必ず上がるわけではありません。
預金金利や資金調達コストが大きく上昇した場合、融資需要が減少した場合、貸し倒れや債券の評価損が増えた場合には、銀行の利益が悪化する可能性があります。
また、利上げへの期待がすでに株価に織り込まれていれば、実際の利上げ後に銀行株が下落することもあります。
金利が下がると銀行株も下がりますか?
一般的には、金利低下によって利ざやが縮小すると予想されれば、銀行株にはマイナス要因になります。
ただし、金利低下によって景気や住宅市場が回復し、融資需要が増える可能性もあります。
企業や個人の返済負担が軽くなれば、貸し倒れが減少することも考えられます。
そのため、金利低下だけで銀行株の方向を判断することはできません。
メガバンクと地方銀行では、どちらが金利上昇に強いですか?
一概にはいえません。
メガバンクは国内融資だけでなく、海外事業、証券、資産運用、手数料収入など、複数の収益源を持っています。
地方銀行は国内金利上昇の恩恵を受けやすい場合がありますが、営業地域の人口、企業数、地域経済、貸出需要などの影響も受けます。
銀行の規模ではなく、預金の構成、貸出金利の変更速度、貸出金残高、保有債券、信用コストなどを比較することが大切です。
政策金利と長期金利は何が違いますか?
政策金利は、中央銀行が金融政策によって誘導する短期金利です。
一方、長期金利は、一般的に10年国債の利回りなどを指し、景気、物価、金融政策への予想などによって市場で変動します。
企業向け融資や住宅ローン、保有債券への影響を考える場合は、政策金利だけでなく、長期金利の動きも確認する必要があります。
銀行株を見るときにPERだけ確認すればよいですか?
PERだけで判断するのは不十分です。
銀行株では、PERに加えてPBR、配当利回り、自己資本比率、預貸金利ざや、資金利益、信用コストなども確認する必要があります。
株価指標が割安に見えても、貸出需要の低下や信用コストの増加が予想されている場合があります。
10.まとめ:重要なのは金利ではなく利益が増えるか
金利が上がると銀行株が上がりやすい主な理由は、貸出金利と預金金利の差である「利ざや」が広がり、銀行の利益が増えると期待されるからです。
銀行は、預金者から集めた資金を企業や個人に貸し出し、その金利差から収益を得ています。
貸出金利が預金金利よりも大きく上昇すれば、銀行の資金利益が増えやすくなります。
しかし、金利上昇には次のようなマイナス要因もあります。
- 預金金利の上昇による資金調達コストの増加
- 住宅ローンや企業融資の需要減少
- 企業や個人の返済負担増加
- 貸し倒れや信用コストの増加
- 保有する国債や社債の価格下落
- 利上げ期待の株価への織り込み
そのため、銀行株を見るときは、「金利が上がったから買う」と単純に判断するのではなく、実際に銀行の利益が増えているかを確認することが重要です。
具体的には、預貸金利ざや、資金利益、貸出金残高、預金金利、信用コスト、有価証券の評価損益、コア業務純益などを確認します。
銀行株で重要なのは、金利が上がったかではなく、その結果として銀行の利益が増えるかどうかです。
金利上昇は銀行にとって追い風になる可能性がありますが、すべての銀行が同じように恩恵を受けるわけではありません。
銀行ごとの収益構造や決算内容、株価への織り込み状況まで確認したうえで、投資判断を行いましょう。
※本記事は、金融や投資に関する一般的な情報提供を目的としています。特定の金融商品や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。投資には元本割れのリスクがあります。最終的な投資判断は、ご自身の責任で行ってください。